前口上
“終焉”そして“衰退期”。
かつて、そう烙印を捺された本格ミステリはその後どうなったか。
東野圭吾『容疑者Xの献身』(二〇〇五年)から今村昌弘『屍人荘の殺人』(二〇一七年)まで、平成後期の国内本格ミステリの動向を総括し、令和本格の進むべき道を探る。
社会の多元化がもたらした不可知論的状況に、虚構の名探偵たちはどのように立ち向かったのか。
従来の本格ミステリからすれば周縁と受けとめられがちな特徴を、整合性に重きを置く推理として整理する。
くわえて、マンガやアニメといったサブカルチャーの普及が本格ミステリにどのような影響を及ぼしたのか概観する。
戦前から現代までの歴史をふりかえり、価値観の相対化が進行した時代にふさわしい、新しい本格ミステリのイメージを提案する。
探偵小説研究会の機関誌『CRITICA』第5号から第12号にかけて寄せた文章に加筆修正し、電子書籍として Amazon Kindleストアから刊行しました。
書き下ろしとして序論および結論を加えています。
序論と結論
書き下ろしの序論ならびに結論を公開します。
泡坂妻夫の「泡」は、正しくは「己」ではなく「巳」です。
主に論じている作家と作品
各稿のタイトルならびに主に論じている作家、作品は以下のとおり。
- 序論
- 綾辻行人『十角館の殺人』(一九八七年)
- 虚ろの騎士と状況の檻
- 東野圭吾『容疑者Xの献身』(二〇〇五年)
- 綾辻行人『Another』(二〇〇九年)
- 相沢沙呼『午前零時のサンドリヨン』(二〇〇九年)
- 似鳥鶏『さよならの次にくる』(二〇〇九年)
- 円居挽『丸太町ルヴォワール』(二〇〇九年)
- ゲーム系ミステリの思想
- 07th Expansion制作『うみねこのなく頃に』(二〇〇七年~二〇一〇年)
- 土橋真二郎『殺戮ゲームの館』(二〇一〇年)
- 七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』(二〇一〇年)
- 推理が探偵を殺す
- 有栖川有栖「モロッコ水晶の謎」(二〇〇五年)
- 有栖川有栖『乱鴉の島』(二〇〇六年)
- 有栖川有栖『女王国の城』(二〇〇七年)
- 有栖川有栖『闇の喇叭』(二〇一一年)
- 有栖川有栖『真夜中の探偵』(二〇一一年)
- 米澤穂信『折れた竜骨』(二〇一〇年)
- 古野まほろ『命に三つの鐘が鳴る』(二〇一一年)
- 探偵が推理を殺す
- 法月綸太郎『キングを探せ』(二〇一一年)
- 目覚めのための子守歌
- 米澤穂信『リカーシブル』(二〇一三年)
- 怪物の愛
- 長沢樹『夏服パースペクティヴ』(二〇一二年)
- 暴力と生の狭間で
- 白井智之『東京結合人間』(二〇一五年)
- 本格とカジュアルとの距離
- 三上延、初野晴、井上真偽、東川篤哉、織守きょうや、
- 北山猛邦、麻耶雄嵩、米澤穂信、瀬川コウ、
- 森川智喜、皆藤黒助、久住四季
- 結論
- 今村昌弘『屍人荘の殺人』(二〇一七年)
参考リンク
過去の『CRITICA』刊行時の試供版へのリンクです。一部を読むことができます。