会場到着まで

 MYSCONが復活する――そんな噂を耳にしたのは、私の記憶が確かであれば三月末、MYSDOKU8宮内悠介『盤上の夜』読書会でのことだった。
(フム、これは応援しなくてはならないな……)
 参加人数の減少、スタッフの高齢化、大喜利のクオリティ維持の限界から継続困難となり、四年間絶えていた幻のミステリイベント――私はその常連参加者だった。

 四年間で、ネット環境は大きく変わった。Twitterを使えば同じ趣味の者同士が気軽に情報交換できる。
 さっそく私はMYSCONをミステリファンに広めるべくつぶやきはじめた。

2013.03.31
もうちょっとしたらエイプリルフールか……よし、MYSCONが復活するという嘘でもついてみるか……。
2013.06.13
(今年のMYSCONは、みんな全体企画で会場から脱出し、そして誰もいなくなってしまうらしい……)
2013.06.16
外出のついでに山田風太郎『妖異金瓶梅』を買ってき……ち、ちがうんだからねっ! 読書会の課題本だからなんかじゃないんだからっ! 傑作だって聞いてたから読んでみよっかなって思っただけで、べ、別にMYSCON楽しみになんかしてないんだから、勘違いしないでよねっ!
風の噂によるとMYSCON読書会の課題本は、広島の学生が試験で不正をした事件を綿密な取材で描いた社会派ミステリの傑作、山田風大郎『カンペ用意OKばい?』だそうです(空耳)。
2013.07.05
MYSCONは……四大奇書をすべて読んでないといけないとか、作家さんとお話できるとか、徹夜で本格ミステリ定義論で侃々諤々しているとか、大喜利をしているとか、そんなデマが飛んでないかなと期待しています。
本当のMYSCONは、自己紹介がみんな「最近ミステリ読んでない」だったり、作家さんがずっと飲んでいたり、ラノベと銀英伝の話ばかりしていたり、大喜利をしていたり、まかり間違って犯人当て企画なぞしようものなら責めに責めぬかれ……(溶暗)。
(う~ん、う~ん、すみません、人名用漢字まではチェックが……)ハ! なんだ、夢か、びっくりした……。
20130.07.06
(あと二時間足らずでMYSCON申込締切か……きっと後ろでIN○さんが門をギギーッと閉ざして鍵をかけて、sh○kaさんが「みなさん、ようこそ地獄へ」って言うんだろうな……)
(「みなさんには北山先生の物理トリックの実験台になってもらいます」)
2013.07.12
今夜はMYSCONだ! 北山猛邦先生の企画「シャーロイド(仮)をつくろう」の予習はバッチシだぜ! 俺の考えた最強デッキはこれだ! →→→ 推理力:石岡和己、証言収集:音野順、犯人説得:古野まほろ、アフターケア:譲崎ネロ、守護霊:ロジャー・シェリンガム

 いやあ……ネタツイートって楽しいよね!

 そんなこんなで迎えた7/12(土)、地下鉄南北線の東大前に降りた私は、鳳明館森川別館を訪れたのだった。
 受付を済ませ、スタッフのsasashinさんの案内で部屋へ。今年はなぜか女性の参加率が高いとのこと。Mt.North効果かしらん。

 部屋の名前は「入船」……のはずが「ホームズ」の貼り紙が。
 受付で渡された会場案内図を眺めてみると、貼り紙の正体がわかった。「※各部屋には探偵名がつけられています。例:明智」とあり、クイーン、ブラウン神父、ポワロといったお馴染みの名前が並んでいる。
 ちょっと到着が遅れて、開会まで後十五分になっていた。荷物を部屋に残し、地下の大広間へ向かう――そのとき、私はすでにMYSCONスタッフの仕掛けた恐ろしい罠の餌食となっていたことに、気づいていなかったのだった……。

全体企画と古本オークション

 大広間に入る。脚を畳んだ長机をふたつずつ揃え、五組並べられている。
 隅の方に、なにやら華やかな雰囲気の机が。北山猛邦先生が著書にサインをされていた。
 やがてshakaさんが入場、同時に自然と拍手が。みんなよく仕込まれている。
 まずは各企画の説明と諸注意。全体企画「森川別館からの脱出」のため、五つのグループに分けられる。
 私は二班に。チーム名は“髑髏筆箱”通称〈ドクロ〉に決めたぜ世露死苦。いよいよ問題編のA4封筒が配られる。
 なにやら挑戦状が。MYSCON参加者を森川別館に閉じこめた、脱出できなければ建物が爆発して死ぬという内容の挑戦状をshakaさんが読みあげる。俺のほうがおまえたちより頭が良いと証明したい。身代金より、証明だと訴える犯人。
「どうもこの文章は、ゑんじの声に聞こえるなあ」
 第9回ミステリーズ!新人賞を受賞した近田鳶迩先生をみなさん応援してあげてください。

 封筒に同封されていたのはパズル問題。アからオまで五つの問題を解くと、AからHに相当する文字がわかり文章が完成する。
 会場の壁に謎解きの材料となる情報が書かれた紙が貼られ、みんな右往左往してケータイで写真を撮りまくる。
 四つまでは順調に解けたけれど、問題オが難しい。「裏を見ろ」という一文だけが書かれ、裏返すとやはり「裏を見ろ」という文章しかない。なんだこりゃ?
 そういえばCについての問題文だけ無いぞ? 別の問題用紙を裏返すと、MYSCONのロゴマークが。Cの下にあった文字が答えだった。
 ようやく「クイーンでバンザイ」という文章が完成。クイーンの部屋へ行き、バンザイをするとスタッフのmatsuoさんから次の問題用紙をもらう。
 机の上には十三冊の本が並んでおり、これも写真撮影して大広間へ戻る。

 問題用紙は一行目に「例の場所で」、二行目は七つの枠に数字が並んでいるけど五番目だけ「金」。
 ハハア、きっと曜日を意味するんだろう。十三冊の本には、加納朋子『月曜日は水玉模様』などタイトルに曜日を含むものもあった。タイトルから枠内の数字の位置の文字を拾っていくと、み、て、み、よ、金……。
 チーム全員大喜びでshakaさんに突撃。「みてみよ金田一! 金田一の部屋に行けばいいんですよね!」
 ブブーッ。shakaさん大爆笑。はい、「田一」のところは検証していませんでした。
 タイトルじゃなくて作者名のほうでは? 漢字の部首から曜日の文字を探し、改めて数字の位置の文字を拾う。でてきた文章は「みのしろ金けせ」。
 身代金……そういえば挑戦状には身代金より証明が欲しいとあった……いや、どこの部屋へ行けばいいんだ? うーん……。
 残り一分、カウントダウンを始めるshakaさん。飛鳥さんが「今日は何日でしたっけ、shakaさん?」時そばか!
 タイムアウト。shakaさんが深夜二時までかかったというエフェクト凝りまくりの答え合わせスライドを鑑賞する。はい、悔しいので最後の答えは書きません!
 というか、MYSCON不参加で、なんとなく興味本位でレポートを読み始めたあなた!あなたは私たちとまったく同じ手がかりを既に得ている!

 チーム政宗のみ脱出成功。開始二時間と経たずに参加者の五分の四がゑんじさんに虐殺されたのであった。
 瓦礫の山と化した森川別館で地縛霊となった私。
「ああ、『進撃の巨人』の2クール目を観ていないのに……」
 まあ原作コミック読んでるからいいかと思っていると、古本オークションが始まった。高みの見物をきめこむつもりだったのに、気づくと石井春生さんから百円で梶山季之『せどり男爵数奇譚』(河出文庫)を購入。
 辻真先『ガラスの仮面殺人事件』は表紙がまさに美内すずえ『ガラスの仮面』のコミックそのもの。貫井徳郎『烙印』にサインをもらいに行くといいですよ、とどなたかがおっしゃってました。
 他、皆川博子『ライダーは闇に消えた』とか、クレイトン・ロースン『帽子から飛びだした死』とか……ええっと……作者名すら聞いたことのない本がたくさん……。

個別企画 読書会

 続いてMYSDOKU 9 in MYSCON 11となる山田風太郎『妖異金瓶梅』読書会へ。
 秋山真琴さんと梁山泊の俠党っぽく大広間のお菓子と飲み物を強奪して、企画部屋「ブラウン神父」へヒャッハー。

 中国が舞台なだけに名前の読みがわかりにくい。私はカウンターレジュメとして、登場人物一覧を作ってきた。
「あらすじ紹介とか面倒くさいし~、人物一覧なら楽勝、半日で作れるでしょ~」普通に漢字変換するだけではでてこない特殊な漢字をいちいち手書き入力しなければならない面倒くさい丸二日かかりましたコンチクショウ。
 丸二日かけたレジュメを自信満々に司会のみっつさんに手渡す。
「おやおや……これはまた凝ったものを……コンパクトに両面一枚で情報を整理して、とても見やすいですね」
「ワハハ、照れるなあっ!」
「あ、これが公式レジュメです」

 わ た し ゃ 道 化 か ー っ !

 フト視線を下ろせば、みっつさんの前には岩波文庫の『金瓶梅』全10冊が……。
「いえ、『金瓶梅』を読まれた方が参加されるとうかがったので私も、と」
 普通、それだけの理由で読まないよっ!
「よく聞いてみましたら小説ではなく、ちょっとエッチなレディコミで読まれたそうです、ハハ」
 オチがついちゃったよっ!
「私はもう読みましたので、よければ差しあげますよ」
 MYSCONまで来て『金瓶梅』全10冊持って帰りたくないよっ!

 和室に座布団、十数名が車座になる。作品が作品だけに男性ばかりかと思いきゃ女性も二、三名。男性だけだったらエロいシーンのランキングとかしたのにね♪以下、ネタバレ箇所は背景色と同じ文字色で隠しています。
 自己紹介と一緒に、いちばんお気に入りの女性キャラを挙げていくことに。
 まあ、やっぱり覗き趣味がありながらも気高さを感じさせる劉麗華が……とか思っていたら、みっつさんに先を越されてしまったので龐春梅に変更。いいよね、ソフト百合!
 ***さん(社会生活への影響を考え名前は伏す)が李桂姐を挙げて「麝香姫」の例の場面を熱く語っていただきました。
 男性は純粋さや一途さといった理由で選ぶ傾向にあるけれど、女性は潘金蓮に共感した方が多かった。といって、西門慶はさほど人気なし。気をつけよう、暗い夜道と女性の前での言葉。
 アシスタントを務める秋山真琴さんが、まだ途中までしか読んでこなかったことを告白。「黒い乳房」までは飛ばしていいんですかなどとほざくので、みんなで説教。
 潘金蓮が犯人だと知ったうえで、ハウダニットとして「変化牡丹」を読むと面白いですよ。

 最終話「死せる潘金蓮」で応伯爵は街が滅ぶのを看過するか、それとも愛する潘金蓮の死体を手放すか選択を迫られる。まさにキミとセカイのどちらを選ぶか決断する「早すぎたセカイ系作品」と云えるかと。
 ただ、そうなるとなぜ応伯爵はセカイを選んだのか。西門家で悪友と共に享楽の限りを愉しんでいたはずの応伯爵が、なぜ良識を保つことのほうを選んだのか。
 うえぴーさんは『妖異金瓶梅』が刊行された当時の、時代を反映するものだったのではとのこと。探偵役として潘金蓮の犯罪を見抜きながらも、応伯爵はそれを西門慶に明かさなかった。それは潘金蓮への愛があったからだが、潘金蓮の罪はすべて西門慶のためであり、報われぬ愛であることは明らかだった。
 西門家での暮らしは応伯爵にとって、いつ果てるとも知れぬ長いモラトリアムだった。だが、それもいつかは終わる。甘い追憶から目覚めるためにはどうしても必要な選択だったのかもしれない。

個別企画 ドラフト方式でアンソロジー

 続いて個別企画「ミステリアンソロジーをつくろう!(但し、ドラフト方式で)」に向かう。
 事前にエントリーした意欲満々なパネラーたちが、司会のみっつさんから子供向けの「おえかき帳」とマジックを配られる。どう見ても大喜利が始まる光景。
 三々五々に見物客が集合し、座布団へ。十五人前後はいたかしらん。パネラーはよく見えるよう、長机から自己紹介。
「みっつさんから三日前に参加してくれと頼まれました」「私も」「私も」
 はい、今日は事前エントリーした意欲満々なパネラーの皆さんでお送りします。

 パネラーは編集者となり、六人の作家から短編一作ずつを選んで、ミステリアンソロジーを作る。まずは作者名から。所定の作家リストから一人を選び、おえかき帳に名前を書く。もし他のパネラーと被った場合はくじ引き。
 一回目、被らない。
 二回目、被らない。
 そろそろこの企画は失敗かという雰囲気が漂いはじめた頃、三回目でようやくshakaさんと政宗九さんが「島田荘司」で被る。自己紹介で、他のパネラーから作家を奪って企画を盛りあげるために来た、と明言していたshakaさんが仕事をしたぜと喜ぶ。

「それでは杉本さん、ここで解説を」
 無茶ぶりキタ━━ヽ(゚ω゚)ノ━━!!
「ええっと、政宗九さんのが法月綸太郎や乾くるみなど、濃い面子で揃えてきているので興味深いですね」
 ああ……無難すぎてイマイチ……可愛そうな子……。
 と、そこへ秋山真琴さんからコメント。
「市川憂人さんのは、後味が悪いタイプで揃えてきてますかね?」
 赤川次郎、西澤保彦、麻耶雄嵩……ああ、ホントだ!
 くっ、これが銀河最強と呼ばれる男のコメント力……!

 パネラーがそれぞれ六人の作家名を挙げたところで、アンソロジーのコンセプトを紹介、しかる後に作品を発表となった。
 最近死にかけたかえるさんのコンセプトは「死の一歩手前」。初野晴「カマラとアマラの丘」など、死にかけの人物や状況が登場する作品。
 法月綸太郎と米澤穂信と新保博久に読まれる男、市川憂人さんは「Destruction」。Destructionは破滅とか崩壊とかいう意味。秋山真琴さんに推理されたとおり歌野晶午「正月十一日、鏡殺し」など、後味の悪いタイプの作品。
 HKT48を宣伝しに来た政宗九さんは「お前誰やねん」。まさに「お前誰やねん」と言いたくなるような作品で、トリは泡坂妻夫「亜愛一郎の逃亡」。いや、それをいきなり読んでも。
 日中文化交流と書いて名無しのオプさんと読む「(医)学者の事件簿」。有栖川有栖なら臨床犯罪学者の火村英生のように、学者が探偵役となる作品。
 そしてshakaさんは「大根奇聞で良い気分」。

 大 根 奇 聞 で 良 い 気 分。

 なに、その……なんつってつっちゃった、みたいなのは?
 語呂は良いが意図不明なタイトルに、ざわめく会場。
 shakaさん曰く「島田荘司『大根奇聞』の凄さと素晴らしさを味わってもらう、ただそれだけのアンソロジー」とのこと。ダンセイニ「二瓶のソース」など、後味の悪い作品をさんざんぶつけて最後に「大根奇聞」を読ませることで身も心も大根に。
 アンソロジーという概念さえブチ壊す。Yes、それがMYSCON。

 最後に、もし書店にあったら誰のアンソロジーを買いたいか、参加者が挙手。
 ベストは政宗九さん。さすが書店員! 名無しのオプさん提供の、中国語版『十角館の殺人』が贈呈されました。

深夜企画 人狼

 (ここは……どこ……わたしは……だれ?)
 そうだ、私は森川別館からの脱出に失敗し、亡霊となって漂う身となったのだ。
(こんなことになるなら、意固地にならずに1000円バーガーを食べておけばよかった……)
 あんたメガポテトで後悔してたやん。
(おや、あちらから人の声が……)

 気づくと私は、とある小さな村にいた。秋山真琴さんから両面に説明が記されたA4用紙を渡され、説明を受ける。
 普通の人狼と少し異なるのは「名探偵」という配役があること。他の配役はくじ引きだけど、これだけは村人から秋山さんが選ぶ。すべての参加者の配役を神の如き名推理でピタリと当てれば、単独勝利できるという。
 各自、自己紹介とあわせて名探偵になってみたいか申告。
「エー、私は人狼に参加するの、これが初めてなので、いきなり吊されたりしちゃうことないですよね?」
 まったくさりげなくない牽制。
「名探偵は、絶対なりたくないって言うと秋山さんの性格からして名探偵にされる可能性が高いので、ほどほどにやってみたいです」
 まったくさりげなくない、むしろあからさまな牽制。

 各自、配役を決めるカードを引く。私は狩人であった。Sie sind das Essen und Wie sind die Jäger!!
 夜が明けた――村には三人の占い師。占い師は村に一人だけのはず。みんなで相談した結果、多弁だった名無しのオプさんを試しに占ってもらうことで真贋を見極めることにしました……。
 一日目の朝――秋山真琴さんが帰らぬ人に! この村には人狼がいる! 三人の占い師たちはみんなオプさんを人間だと判定しました。少なくともオプさんは信用してよさそうです。新しく占う人と吊す人を決めて就寝。
 夜――さて、私は狩人として、誰かを守らねばならない。だが、誰を?
 エート……つまり、狩人はどうやって村人を守るかというと、その村人の家に一晩泊まって、もし人狼が襲ってきたら銃で追い払うからなんだよな……一晩泊まりこむ……つまり、いちばん受けっぽい人を選べばいいのか……。
 二日目の朝――誰も殺されていなかった! そ、そういえば、狼を追い払った気がする! 昨夜の俺、超かっこよかった!
 ここで北山先生が告白。実は北山先生は霊能力者だったのだ! まさに人外境ロマンス!
 昨日の晩に吊しちゃった人は人間だったと判明、まだ狼は二匹とも村に潜んでいる……。再び、占う人と吊す人を決めて就寝。
 三日目の朝――北山先生の申告で、吊した秋田紀亜さんが人狼だったと判明! いろんな読書会に参加したり、アニメの監督したり、経済関連のツイートばかりしたり、よくわからない人だと思っていたけれど正体は人狼だったのだ!
 セオリー的に占い師たちのローラー作戦へ。ひとりは本物、ひとりは村を裏切った狂人、ひとりは人狼。高度な駆け引きの末、みっつさんを吊すことに。

「――ちょっとお待ちください、みなさんにお話したいことがあります」
 唐突に語り始めるオプさん。
「さて、まず杉本さん、あなたは狩人ですね」
「え……?」
「二日目の朝、誰も殺されていないと知ったときの、あなたの驚きは尋常ではなかった。人狼経験者なら、あそこで防衛に成功したのはただの運に過ぎないとわかったはず。人狼の経験が少なく、かつ狩人だったからこそ、まぐれ当たりに驚愕せざるを得なかったのです。では、次に……」
 私があんぐりと口を開けたまま惚けている間に、オプさんの口から滔々と語られる名推理。次から次へ配役を言い当てられ、参加者たちは「参りました」「そ、そんな、信じられない!」「あなたが神か……」と口々に降参と賛辞のことばを連ねるのであった……。

 などということが起きるわけもなく。
 四日目の朝、村に平和が訪れました。吊られたみっつさんが人狼でした。
 名探偵役をあてがわれた名無しのオプさんは、三日目に人狼に殺られてました。あのね、そういうときはせめて、ダイイングメッセージを遺してくださいよ。
 てな感じで終了。続けて「箱庭の人狼」というのもやったけれど、もはやリッパーさんら上級者たちの思考レベルに追いつけず、ろくに細部を覚えていない(そもそも説明ができない)ため省略。

深夜のお絵かき大会

 村に平和が戻ったので、大広間に戻る。第9回ミステリーズ!新人賞受賞作の近田鳶迩「かんがえるひとになりかけ」について楽しくダメ出しをしていると、別のゲームをすることに。
 ゲームの名前は「お笑いマンガ道場」……ではなく、英語のなんか長いタイトル。要はお絵かき伝言ゲーム。
 各人がバラバラのお題で、一分間でイラストを描く。隣の人にスケッチブックを渡し、イラストから推測したお題を書く。隣の人にスケッチブックを渡し、お題から一分間でイラストを描く……ということを続けてスケッチブックを一周させる。

 じゃあ試しに、このイラストをよ~く見て、お題はなんだったのか考えてみてね♪

煙草?

 正解は“輪ゴム”でした……。
 うん、いや待った。君の言いたいことはよくわかる。これがいつの間にか“煙草”に変わっていたのも無理はないというものだ。
 だがね、一分間しか描く時間がないというのがミソなんだよ。そう、真ん中の楕円形の物体だけでは輪ゴムだとわからないだろうと心配したんだ。
 だからその下に、指でビヨーンと伸ばしているところをつけくわえようとして時間切れになったんだよね……名探偵には、犯人や被害者の心理状態も考慮した、多角的な推理が要求されるのだよ!

 ちょっと難しかったかな? それじゃ、次にこのイラストで考えてみてね♪

モルグ?

 正解は“死体置き場”……ではなく……。
 北山先生がこれを見事“ハンモック”だと解読。MYSCON期間中、北山先生がいちばん名探偵に見えた瞬間であった。

 お題→イラスト→お題→イラスト→……と繰り返すので、最初の人がうまく描いても、途中に人狼がいると、そこで惨劇が始まる……どうやら二人ほど人狼がいるとわかってくる……。
 エー、まったく関係のない話ですが、みっつさん、ダイイングメッセージを遺すときはイニシャルとかでお願いします。

深夜のロングトーク

 さて、草木も眠る丑三つ時。死体(寝てる人)がごろごろ転がる大広間に、未だ熱く語り続けるグループがあった。いや、グループというか、ほとんど一人の男だけが滔々と語っているような……。
 灯りに誘われる蛾のごとく輪に加わり、耳を傾けてみる。shakaさんのトークであった。お題は「ミステリを元気にしていくにはどうすればいいのか(大意)」
 以下、覚えてる範囲を、わかりやすいよう話の順番を整理したり細部を補足したりして(というか話の順番とか細部とか覚えてないしな)書き綴ってみる。

 最近、ミステリに元気がない。少なくとも出版業界における売上という面では明らかに年々縮小傾向にある。
 ミステリに詳しくない編集者が増えているらしい。特に大手だと、いろんな部署をローテーションさせる方針があるらしく、むしろ作家の方がミステリについて教えなければならない状況だとか。
 だからといって、マニアックな方向の進むのが良いかといえば、そうとは限らない。ある古典的なトリックを踏まえ、改善したトリックを小説に用いても、元のトリックを知らない読者には意図が伝わらない。
 サウンドノベル『ひぐらしのなく頃に』や『うみねこのなく頃に』の監督・脚本を担当した竜騎士07は、インタビューで京極夏彦を読んでないと語った。『ひぐらしのなく頃に』の真相は、一部のミステリファンをがっかりさせた。
 その一方で、アニメ化やコミカライズなどもされ、若い世代からは大きな支持を受けた。私はエアミス研のTwitter読書会のためジョン・ディクスン・カーの古典的名作『火刑法廷』を読み、ハッタリのうまさに竜騎士07を連想した。
 教養だけで面白い作品を書けるわけではない。小説技術の確かさ、時代の風潮を掬う感性、そういったものも大事になってくる。ミステリファン以外の、ミステリを知らない読者さえ惹きつける魅力が必要。
 では、ミステリの面白さとはなにか。全体企画の脱出ゲームのように、誰にでもわかりやすい謎解きのプリミティブな面白さをMYSCONで体感してほしいとshakaさんは語る。同じ路線で、トリックを実演する企画案もでた。

 視点を変えると、そもそも本当にミステリは元気を失っているのか、という疑問もある。
 SFはよく冬の時代と云われるが、ライトノベルやコミックへの浸透ぶりはミステリの比ではない。冬なのは飽くまで大人向けのハードSFだけで、視野が狭いんじゃね? と外野からは思ってしまう。
 ミステリも、SFと同じ状況になりつつあるんじゃないかという危惧がある。かつて新本格ムーブメント当初の頃はミステリ=小説、しかも講談社ノベルスや東京創元社だけ追っかけていれば話題に事欠かなかったかもしれない。
 それが今はSF/ホラー/純文学といった隣接ジャンルとのクロスオーバーが進み、アニメ/映画/ドラマ/ゲーム/コミックとメディアも横断し、竜騎士07が良い例だけどプロ/同人の垣根も低くなり、いきなり円居挽みたいな才能が講談社BOXからでてきたり、メディアワークス文庫で『ビブリア古書堂の事件手帖』がミリオンセラーになったりする。
 面白いものがどこからでてくるのかわからない。昔は狭い範囲をみんなでウォッチしていたから興奮を共有できたけど、いまは範囲が広すぎて誰一人として全体を見渡せない。
 MYSCONが始まったのは2000年。当時はまだ、ある程度の知識がないとサイトを開設できなかった。「ミステリ系更新されてますリンク」経由で知った有名なミステリ系書評サイトの運営者と会えるのは、ちょっと特別な体験だった。
 けれど、いまはTwitterなどで誰でも毎日、気軽に情報交換ができる。「はてなアンテナ」で自分の好きなサイトだけを巡回できる。一口にミステリファンといっても、みんな自分で編集した視野でしか見ていない。
 清涼院流水『コズミック』にはみんな失笑した。米倉あきら『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい』がでてきても、ライトノベル系ミステリを受容する層(と、極めてごく一部のうみねこファン層)だけが反応して終わる。
 どこかで誰かがRTするのをやめると、そこで事象の地平ができる。裾野が限りなく広がったうえに蛸壺しつつあるため、勢いのあるムーブメントが生まれにくくなってきてるのでは。
 統計的データはないが、ガリレオシリーズはドラマと映画でしか観てませんなんてライトな層まで含めれば、むしろミステリ“ファン”総体は増えてるかも。逆に、自分を“ミステリ”のファンだと自覚する人は減っているかもしれない。

 だからド直球で“ミステリー・コンベンション”略してMYSCONなんて名乗ってるイベントには参加しにくい。こういう傾向自体はどうにもならないので、方策としてはふたつ考えられる。
 ひとつ目は、普段からのネットでの付き合いを大事にしましょうね。ニコニコ動画のにぎわいなくしてニコニコ超会議の成功なし。
 ふたつ目は、作家さんを招待するなどして、ミーハー層の魂に火をつけること。ミステリを愉しんでいる人は、自分はミステリ好きだと自意識をこじらせている人よりも多い。

 北山先生も、作家はただ作品を発表して終わらせるだけではなく、こういったイベントへの参加など多角的な活動が大事と思うとのことでした。
 大変ありがたいことです。shakaさんによると、宮部みゆき先生は日本推理作家協会60周年イベント「作家と遊ぼう!ミステリーカレッジ」でメイドの格好をされ、大人気を博したそうです。
 さて、みなさま。新本格界のプリンスには、どれが似合うと思いますか?

オリジナルメンズ衣裳 | 衣裳 | 東京ディズニーシー・ホテルミラコスタのウェディング | ディズニー・フェアリーテイル・ウェディング
http://www.disneyweddings.jp/dhm/dress/costume.html

 だからこそ、みんなにとって共通する、ミステリの原点みたいな楽しさを経験するのが大事ではという話になったのだけど。
 私としては、そういう原体験としての謎解きの楽しさ、といった考えを、あまりこじらせないほうがいいと思う。
 例えば本格ミステリの黄金期と呼ばれる大戦間探偵小説も、ミスリーディングで読者を翻弄するクリスティ、論理性を追求したクイーン、ハッタリと外連味が持ち味のカーというふうに、有名どころの三作家でさえ傾向がまったく異なる。
 新本格ムーブメントを特徴づけたのは、ホラーやSFといった隣接ジャンルとクロスし、民俗学だの理系だの広範な材料を呑みこんで物語世界の建材とするような多様性だった。
 例えばホラーだったら、恐怖という感情は誰にでも生来的にある。謎解きの快感も原始的感情に含まれるだろうけど、そこでプリミティブなものこそ良しと単純に決めつけてしまうと、文学としての多様性を失ってしまう。
 なにかがマニアックな方向に進化しすぎて行き詰まったときは、原点回帰が有効になる。とはいえ、それが常に最善策というわけでもない。

 そもそも本当に脱出ゲームはプリミティブな愉しみかしらん? それなら「例の場所で」みたいな飛び道具っぽい工夫はせず、一人きり部屋に閉じこもって問題を解くだけのほうがプリミティブなパズルに近くなるけど……私は、脱出ゲームも現代的に洗練されたミステリの一形態に思える。
 限界研『21世紀探偵小説論』所収の渡邉大輔「検索型ミステリの現在」では、近年になってミステリ作品に登場する論理が検索的なものになってきていることを論じている。
 どういうことかというと、とりあえず外れていてもいいので仮説を立て、それを検証し、間違っていたら崩してやりなおすような、場当たり的な論理ということ。まるでネットで検索して、目的のページがみつからなかったら、ちょっとキーワードを修正してもう一度やり直すような感じ。
 実は、法月綸太郎がそれを予見していたかのようなことを「一九三二年の傑作群をめぐって」(一九九九年)で述べている。といっても、法月はクイーン作品を踏まえて、検索的な考えのほうに進むべきだと云ったんだけど。
 どういうことかというと、例えばある手がかりが、犯人がうっかりミスして遺した手がかりなのか、それとも名探偵を騙そうとする偽の手がかりなのか、それによって推理の真偽は大きく変わってしまう。
 手がかりからボトムアップで推論を築いていくタイプだと、一箇所でも推理が間違っていると致命的になる。たったひとつの解釈誤りが結論を変えてしまうから、フェアプレイの成立が困難になる(すなわち、後期クイーン問題)。
 そうではなく、いっそ複雑さを許容する。手がかりの多義性を許容して、次々と仮説を提案し、それを片っ端から検証する。脱出ゲームの推理も、これに近い。
 ある問題が出される。それが解けたら次の問題を解く。それが解けたら次へ……というふうに、小さな問題をだされては、それが正解かどうかそのたびに検証している。だからこそ、フェアプレイが成立している。
 なにが言いたかったかというと、shakaさんは脱出ゲームをプリミティブな謎解きの愉しさと捉えたけれど、実はそれこそ、エラリー・クイーンの時代から連続する本格ミステリの大きな流れが時代性と対話した末に到達した地点なのかもしれないよ、ということです。

 けれど法月綸太郎のように、歴史も踏まえたうえで現代をみつめて、本格ミステリが進むべき道を探ろうとする真っ当な理論家なんてもののほうが圧倒的小数に過ぎない。むしろ竜騎士07や脱出ゲームのように、理論ではなく直感や感性で心に訴えるものが突然でてくる。
 だからこそ、そういう作品をいち早くキャッチして、歴史との連続性を考えて、本格ミステリとはなにかという問いにフィードバックさせていくことが重要になると思うわけですよ。

 エー、実際は……shakaさんからは、クイーンを読んでないとそんなこと理解できない時点でダメじゃんとかツッコまれて私、へこんでたんだけどね☆
 そもそも、こんな長い話を理路整然と語れるほど芸達者じゃないわーっ!気持ちとしては「後期クイーン問題」という言葉をリアルに人前で発声できて大変満足でしたがなにか?

早朝、そして解散

 てな感じで時間が流れていき……ヤベー、shakaさんの語りを聞いているだけで気持ちよくなってくる!
 抵抗できないほど疲労困憊している状態で延々と演説を聞く……やばい、これがカルト宗教のやり口か……。

 途中でshakaさんはスタッフに呼ばれて大広間から退場。少し後で、すれ違った名無しのオプさんによると、お風呂のある辺りで深刻そうにしていたらしい。
「きっと他殺死体がみつかったんですね」
「ああ、なるほどね」
「これがバレるとMYSCONを継続できなくなるから、隠蔽工作を進めるのと並行して犯人探しをしているんですね」
 石 持 浅 海 作 品 か !

 けっきょく、完徹。ああ、外が明るい。
 みんなが起きて来る前に、粛々と後片付け。なぜか名無しのオプさんが西野マルタ『五大湖フルバースト』下巻を読み始める。アメリカの国技は相撲になったそうです。
 午前七時、終了。それではMYSCON12で、またお会いしましょう!

帰宅後

2013.07.14
MYSCONから無事帰宅。完徹(かんぜんてったいの略ではない)。
@youmoutei @meter_k_second おはようございます! おやすみなさい!(とりあえず朝食をとってから一眠りします……)
【今年のMYSCONの結論】『妖異金瓶梅』はセカイ系。
【MYSCONレポート】開始一時間半で5分の4が某ゑ○じに殺される→妖異金瓶梅はセカイ系→大根奇聞で良い気分→人狼上級者マジ怖い→みっつさんダイイングメッセージはイニシャルとかにしてください→shakaさんのミステリを元気にするにはどうすればよいかトークにガチで付きあう北山先生。
やった! レポート書き終わった! 楽ちん! Twitterバンザイ! クイーンでバンザイ!
@ykurubushi わかってます……書きます……。('・c_・` )
2013.07.16
熱が六度三分……げに恐ろしきMYSCONの呪い……。
2013.07.18
MYSCONで言ってた「実演してみたら面白そうなトリック」だけどポーの「盗まれた手紙」はどうだろう。犯人役のINOさんの家を平方インチ刻みで拡大鏡で調べます。もちろん隣の家の二軒も。幸せな家庭がひとつ壊れるかもしれないけど。
ということを帰り道にぼんやり考えていて「今日はなんだか調子がおかしいな」と思っていたら熱のせいだったのか……。