どうやら、水影以外に上級生の部員はいないようだ。
五人が同じ机に集まり、自己紹介をした。それが一周すると、なし崩しに雑談が始まった。囲夫のテンションがやけに高く、会話が盛りあがった。
「あのぉ……」
入り口から、声がした。
全員の視線が、扉に集まる。中年女性が、そこに立っていた。つなぎを着て、土木工事でも始めそうな格好だ。
「橘先生は、こちらにぃ?」
「あ、宇美音さん」
水影が立ち上がった。
確かに、そんな名前だったな。この学校の用務員をしているらしい。校内のいろんなところでみかける人だ。
「いえ、来ていませんが」
橘先生なら、今日は風邪で休みでしたよ。俺が補足した。
「いえ、いらしてますよぉ」
ぷらぷらと宇美音は顔の前で手を振った。
「風邪、治りなさったそうで。理科準備室の鍵を借りていかれました」
「……それは、いつですか?」
水影が、首を斜めにして訊いた。
「放課後すぐですよぉ。それはいいんですけど先生、まだ鍵を返してもらってないんで……」
キーボックスは、職員室にある。宇美音さんがいれば宇美音さんが、いなければ他の教職員が鍵を渡す。
南京錠だから、施錠は鍵がなくともできる。借りた鍵は、解錠したらすぐ返しに行くことになっていた。
「また前みたいに、鍵を部屋の中、うっかり置き忘れたまま帰っちゃったんじゃないかと思いましてねぇ。いちいち先生のお家に電話するのもなんですし」
「わかりました。鍵を置き忘れているだけかもしれないから、スペアキーかなにかで部屋に入ろうということですね?」
「生徒さんにご迷惑おかけするの申し訳ないですけど、ちょっと私一人で入るのもあれですからぁ」
「ええ、もちろんかまいません。理科準備室は、誰もいないんですね?」
「ダメですよぉ。全然ダメですねぇ。まあっくらですし、鍵もかかってます」
「わかりました。では、様子を見に行きましょう」
「僕も行く!」
急に囲夫が立ち上がった。やけに真面目な顔をしている。少し遅れて、湯船も立ち上がった。
あい、すみませんねぇ。宇美音さんと一緒に、水影、囲夫、湯船が連れだって図書室をでていった。
(……ン?)
水影はわかる。橘は図書班の顧問で、水影は図書班の班長だからな。
だが、囲夫と湯船が付き添う理由ってのは、無い気がするんだが。