なにやってるんだ。あいつらは。
もうすぐ昼休みが終わる。しかし、囲夫達は戻ってこない。
ひょっとして、三階か?
囲夫にしてみれば、犯人が誰かなんて推理は朝飯前だ。スチャからの情報があれば、すぐに絞りこめる。ひょとすると、美術準備室で物的証拠を探しているのかもしれない。
「おっ」
廊下へでたところで、思わず声をあげた。未緒がこちらへ歩いてきたところだった。キョトンとした表情で、俺を見返す。
「囲夫は、どうしたんだ?」
そのときだった。
階段のほう、誰かが降りてきた。
一人は湯船。もう一人は――。
「は……?」
三月、合格発表の日。
あの青いワンピースの少女がいた。マルチーズをこわがって歩道を遠回りした女子が、なぜかセーラー制服を着ている。それだけじゃない。胸元にあるのは。
(白い……スカーフ?)
美少女探偵?
頭の中がごちゃごちゃになる。ワンピースの少女は、未緒じゃなかったのか? いや、未緒はここにいる。俺の目の前にいる。ほら、俺のすぐそばに。
すぐそばで、ゆっくり手を左右に広げて。
俺を抱きしめている。
「み、みお、さん?」
硬直。
「ななな、なにをなさっておいでで?」
いや、待て、そうか、これは。
やばい。
「うふ」
俺を抱きしめている男が、吹きだした。
「うふひはははははは!」
「な、なにやってんのよ!」
美少女探偵が、飛んでくる。
文字通りの意味で。ジャンプして、ボディアタック。肘が俺の顔にクリティカルヒット。
ウィッグが外れ、憤怒している未緒の顔が現れた。
(そりゃそうだよな……)
囲夫が変装しても、声で男とバレる。そこをなんとかごまかせても、甘宮先輩とはバドミントンで顔を合わせてる。美少女探偵をやるとしたら、未緒しかいない。
「おまえら……なにをしてたんだ?」
「ん? いや、図書班がつぶれちゃうなら、伝説だけでも作っておこっかなって」
のほほんとした顔で俺たちを眺めてる湯船。そうか、さっきの長電話は、携帯電話で未緒に謎解き役のサポートをしてたのか。
「わかった。美少女探偵のほうはいい。で、おまえが未緒に変装してる理由はなんだ」
「どうでもいいから! アンタ達、さっさと離れなさいっ!」
囲夫が、ウィンクした。
顔を真っ赤にした未緒が、後ろから囲夫をひっぺがそうとしている。
うん。そうだな。
おまえたちのやることに、意味なんてないわな。