人類史上、最も偉大な発明は「エアコン」「眼鏡」「締切」の三つである。
エアコンとは、もちろん単なる空気冷却装置のことではない。ここでは、独立した閉空間の構築を通じて外部と内部との間に境界線を設け、神と人、自然/人工に文節をもたらした概念の出現を指す。これによりヨーロッパ諸国が暗黒の中世から近代的合理主義精神へ向かうことを可能たらしめたのだ。
眼鏡とは、もちろん単なる視力矯正器具のことではない。人間概念の拡張と均質化である。眼鏡は個人の能力を強化させるだけではなく、大衆に同じ視力を持たせ一元的管理を可能にする。自己概念の拡張は空前の物質文明をもたらしたが、無個性の大衆は二度の世界大戦へ送りこまれたのだ。
締切とは、もちろん単なる原稿提出最終期限のことではない。時間の有限性を利用することで、眼鏡とは逆に自己の能力限界を概念化し、実存の回復を図った。かくして第二次世界大戦後、人類はたがいに契約を交わし性能限界を競い合うことで、資本主義の発達と個人の尊重を両立させたのである。
というわけで、エアコンの効いた部屋で、眼鏡をかけて、締切に追われている私は無敵である。