夢子26才、好きな工具はニッパーです☆

 あ、起きた? うふ、びっくりしてるね。大丈夫、初めから説明してあげる。ハル君、時間移動できるんでしょ? 驚かなくていいよ。ハル君だって信じられなかったんだもんね。だって過去にしか行けないし、それも目が覚めた時刻にだけ。未来の記憶は夢みたいに曖昧で、現実とずれてるときもある。これじゃ、頭のビョーキだと思うよね。ところで昨日の夜、舞さんの部屋に泊まったでしょ? うふふ、慌てなくていいよ、もうバレバレなんだから。でかけたのは、煙草がきれたから? それで遊びに来た私と、マンションの入り口で鉢合わせしちゃった。だから、過去に跳んだんだよね。目が覚めて、やっぱり煙草が欲しくなった。裏口からでれば大丈夫だと思ったの? エレベーターの扉が開いたら私がいて、びっくりしてたね。うん、わかるよ。時間移動なら私の行動は同じになるはずだもの。だからね、そこが違うの。ハル君のは超能力じゃないの。いい? この世界は多分、ノベルゲームなのよ。しかもバグつき。私とハル君だけ、過去のシーンで分岐を選び直す前のシナリオを覚えてられるの。時間移動じゃなくて、本当はプレイヤーがセーブシーンに戻ってただけ。うん、やっぱり頭おかしいと思うよね。だからハル君、また逃げたんだね。あれ? どうして私がここにいるか、まだわかんない? うん、私は舞さんとハル君が同じマンションだなんて知らなかったし、舞さんの部屋番号は知らないから、部屋に入ってくるなんてできないはずだよね。でもほら、よーく思いだして? 昨日の夜、ハル君は誰と呑んだの? 舞さんと私が誘ったとき、どっちを選んだの? そうよ、ハル君が泊まったのは私の部屋。このゲームのプレイヤー、二日前に戻ったのよ。舞さんを選ぶとバッドエンドになるから、私のほうを先に攻略してみる気になったわけ。まだわからない? 私とハル君は選択肢の履歴を記憶してるけど、それは一日分だけなの。いままでハル君が未来の記憶と現実がずれてると感じたことがあったのは、こんなふうに全然違う分岐に入ったからだったのよ。え? 瞼? 大丈夫、気にしないで。えっと、これを読んでる君、いいかな? こっからグロいシーン突入だけど、ハル君の瞼は接着剤で閉じてるから、画面は真っ暗でしょ? だからなにも怖いことないよ。瞼を細めて文章は飛ばして、ちゃんと最後まで終わらせてね。じゃあハル君、まずは左足の小指からいってみよっか♪