一人ならやらない

 しばらく沈黙が続いた。ハンドルを握る彼女が、唐突に唇を開く。
「難破船から波にさらわれた人が無人島に流れ着くとしましょう。漂流者が一人だけならやらないけれど、二人以上だと必ずやることってなんだと思う?」
 湾岸道路のカーブに沿って、すべての影がゆっくりと回転する。僕は瞬きを意識しながら、いくつかのくだらない答えを投げ捨てる。
「目隠し将棋をすること?」
「法律を作ること」
 僕は曖昧に笑う。彼女は表情を崩さず、まっすぐ前をみつめる。
「それが人間でしょ?」