十一万五千二百回

 彼の言葉を頭の中でリピートする。ぽつぽつと語った、熱帯雨林の湿った空気と闇の夢。普段の生真面目さのまま語る彼なのに、内容の詩的さがなんだかアンバランスだった。夢をみてるときだけ人は誰でも詩人になるのかもしれない。
 眠っているときの脳の状態は、起きているときとは違う。夢は誰でも一晩に三、四回はみていることが脳波の研究からわかっているけれど、脳の状態が違うので記憶することができない。目覚めたときに覚えているのは、いちばん最後にみた夢だけだ。
 簡単に計算してみる。人生八十年として、一年をちょうど三百六十日とする。毎晩四回夢をみるとすれば一生で十一万五千二百回になる。なんの努力もなければ、人はその人生でたった十一万五千二百回しか詩人になれない。