寂滅

口の中、氷がゆるゆると溶けていた。
泣くように溶けていた。
舌の上で湧くように冷たい水がとろとろ喉に流れ込む。
冬だった。寒かった。
こんなに季節が早く巡ろうとは思わなかった。
投函した手紙のように取り返しのつかないことだった。
冷えていた。ひたすら冷えていた。
けれどもう身体は凍えなかった。凍える力さえ溶けだしていた。
私の生きる熱はこの大気を少しも揺るがせなかった。
口の中の氷のように小さく縮こまり流れゆく、嬉しいような眠さがあった。
こうして死んでいくなら悪くない気もした。

私は冬の渚に泣く夢をみたのだ。
黒い海に降り注ぐ雪を見たのだ。