早引表

※白井智之『東京結合人間』(角川書店、2015年9月30日 初版)に基づき作成した。

No. 章/節番号 粗筋 備考
1 5 プロローグ 千果と結合しようとする大樹(ヒロキ)。  
2 12   結合人間として意識を取り戻す。女医の質問「あなたは鳥ですか?」に「鳥です」と答えられず、オネストマンになったと判明する。  
3 14 * * * 座間医師から、結合人間とオネストマンについて説明を受ける。p.20 “人気モデル・川崎千果と気鋭の映像作家・ヒロキが交わり生まれた結合人間が、傷害罪の容疑で指名手配されたのは、それから二週間あまり後のことだった。” 大樹の名字が記述されていないことに注意。丘野ヒロキチカは漁船からオナコに突き落とされ、オナコが丘野に扮した。p.341参照。傷害罪とは、丘野が千果のおやっさんに手を出したこと。p.54, p.285参照。
4 21 少女を売る    
5 23 七月の終わり、夏休みはまだ始まったばかり。「友だちに会いたい気持ちです」栞が言う。コスモスハイム207号室にいる寺田ハウスの三人組(オナコ、ネズミ、ビデオ)と、監禁されている栞。
p.25 “同じくらいの歳の、お人形さんみたいに小さい、優しい、女の子がいいです”
6 25 * * * 白鳥ニュータウンで、栞のため少女を物色する三人。結合人間の着ぐるみを身につけたオナコがヘッドホンの少女(茶織)に声をかける。暴れる少女に抱きついたオナコごと、ビデオの運転するワンボックスカーと激突する。 p.27「ああ、あの坊主のせいでよく見えねえ! 男なんてみんな死んじまえばいいのに」オナコが女性であるヒントか。
p.29 ネズミは背の低さから、身長の高い女性を嫌う。
7 32 ビデオとオナコの過去。杉並区の小学校に通う幼なじみだった。オナコが小学生をカラスと一緒に飼育小屋へ閉じこめ、死に至らしめたエピソード。 p.35「おれ、どうやっても女と結合できない身体なんだって」女性のオナコは女性と結合できない。
8 35   ネズミとの出会い。高円寺の安アパート「寺田ハウス」で一人暮らしをしていた。羽家監督の映画『あかいひと』のあらすじと、羊歯病についての説明。アダルトビデオの映像制作業を始めるが、やがて売春斡旋業へ p.39 “もっとも寺田ハウスの撮影では、絡みの相手がいつもオナコなので、少女と結合してしまうおそれがなかった”
9 40 * * * 二人目の少女を拉致した翌日、深夜十一時過ぎ。コスモスハイムに帰宅したビデオ。オナコに茶織との性行為を誘われるが、ビデオは断る。段ボールに詰めこまれた栞。ネズミに「つぼみハウス」の感想を求められる。 p.42 ビデオは羊歯病感染への恐れから、コンドームを常用。ビデオは羊歯病の予防接種を受けていない。
p.43 背の高さから栞はネズミにとって性行為の対象外だった。
10 45 * * * 栞を監禁するに至った経緯。四月二日、不法投棄のゴミ山で性行為をしたいと中村大史から要望された。栞が応えてくれた。三日後、オナコが国道沿いのラブホテルに栞を連れこみ、眼球に釘を打つなどした。  
11 53 ワンボックスカーでヒメコたちを送迎するビデオ。ヒメコの客とその親が喧嘩していると連絡を受け、ビデオはマンション「浅草ハイランドスクエア」へ。口論している波多江親子に、支払いを求める。ヒメコにお人好しと言われるが、波多江ミナトの親はオネストマンだと告げる。 p.53 浅草には羊歯病の専門医院がある。岩手県盛岡市で小学生の兄妹が行方不明になったニュース。
p.54 川崎千果の親が殴打されたニュース。オナコは寺田ハウス三人の本名をヒメコに明かしたことがある。
12 63   深夜十一時過ぎ。なぜオネストマンと気づいたかビデオがヒメコに説明する。  
13 65 その日の夜、栞と茶織が死亡。ネズミが茶織を殺した経緯を説明する。本当は死んでいなかった茶織に襲われるが、オナコが金槌を奪い返り討ちにする。  
14 68   中村大史が私有するゴミ山に、栞と茶織の死体を遺棄する。新しく友だちが欲しいという栞の言葉に違和感を抱くビデオ。 p.70 “茶織の遺品らしいヘッドホンをダニに投げつけた” セーラー服の少女もミントグリーンのヘッドホンをしている(p.275参照)。恐らくここから寺田ハウスとのつながりが判明した。
15 71 白鳥ニュータウンへ。白鳥第三中学校で、ビデオは日刊スクエアのハタエを騙り、栞について話を聞く。ダニの本名と顔写真を調べてもらい、ヒメコだと判明する。栞はヒメコを狙っていたのかと推理するビデオ。 p.73 月刊カルトにジョイントマンについて書かれていたと中学生が語る。
p.76 栞は健康診断で養子だとバレたという。栞とダニは幼なじみだった。
  82   北総べんり鉄道の上り列車で、栞が遭遇した暴行事件の詳細を携帯電話で調べる。地下鉄浅草橋駅近くで強姦されたらしい。 p.82 栞の実家族の菩提寺は、杉並区にある。
p.83 強姦犯は浅草橋の病院に通う難病患者だった。
17 83 二週間が過ぎる。その間にビデオは波多江ミナトから料金を受けとり、栞が襲われた現場を確認した。 p.84 大道芸人を集めたイベントに身長六メートルの巨人がいた。結合人間が肩にもう一人の結合人間をのせていた。
  85   八月二十六日、早朝。中村大史が監禁容疑で逮捕されたニュース。岩手で兄妹が行方不明になっていたのは中村の犯行だった。逃げることを決意するネズミ。  
19 88 翌年の初秋、東京に舞い戻った三人。オネストマンで「つぼみハウス」のような映画を撮ることに。  
  94   撮影開始を十二月一日に決め、出演者募集を告知する。出演者が足りず、ノーマルマンを二人ヤラセで入れることに。  
21 96 十二月一日、クランクイン当日。大型客船で八丈島へ、八丈島で漁船に乗り換える。今井イクオクルミから、寺田ハウスの三人は売春組織の人間だと知っていると切りだされる。栞のたくらみについて推理を述べる。寺田ハウスの三人は、今井によって海へ突き落とされる。 p.96 撮影クルーがみな未結者では怪しいと、オナコは結合人間スーツを着ていた。
p.97「ご、ごめんなさい。えっと、ぼく、遅刻してませんよね?」双里が『フタリが間に合った』という言葉を聞き違えた(=ノーマルマンが二人いる)。p.243参照。
p.104 “その彼が茶織さんを凌辱すれば” 今井はオナコが女性だと知らなかった?
22 113 正直者の島    
23 114 カリガリ島 見取り図    
24 115 船室で圷ミキオミサキが、異常な縦揺れのせいで目を覚ます。小奈川と様子を見に行き、今井をみつける。今井によれば、操舵手が寺田ハウスの三人(監督、助手、カメラマン)を襲っていたという。船室に戻り、浅海がクルーザーなら操縦経験があると申告する。二十分後、七人がカリガリ島に上陸する。  
25 121 「おや、女の子がいますね」今井がつぶやくが、圷が目を凝らしたときには姿が消えている。歩きながら圷は小奈川と身の上話をする。洋館に到着、狩々ダイキチモヨコに今井が交渉する。「なにか見たのか」作業員を泊まらせた宿舎を案内してもらうことに。 p.122 “甲板に大波が襲いかかったとき、ドボンと何か落ちる音を聞いたが” →オナコが丘野を突き落した音。p.341参照。
26 128 宿舎に到着。連絡手段はなく、定期便を待つしかないと知らされる。自己紹介。「だからマウリッツ・エッシャーなんだ」という双里のつぶやきをきっかけに、狩々が画家だとわかる。 p.129 “ふと、甘い蜜のような香りが鼻腔をくすぐった。”
p.131 「結合人間スーツを来た未結者ですか。一目ではわかりませんが、半日尾行すれば尻尾を掴む自信はありますね」
27 139   部屋割りを決める。神木のみ一人部屋(一号室)、今井と双里(二号室)、丘野と圷(三号室)、浅海と小奈川(四号室)が二人部屋に。  
28 141 十七時を回ったころ、圷と丘野は今井に頼まれ、一緒にカリガリ館へ食糧をもらいに行く。双里は身長が四メートルを超えるので、狩々に用意されたジャージのサイズが合わない。一号室の窓に貼られていたと、カリガリ島の地図、カリガリ館の見取り図を神木が見せる。圷がかつて小奈川の健康診断結果を盗んだことを告白する。圷が果物ナイフを落とし、Y字のヒビが入る。丘野が狩々=ジョイントマン説を唱える。二十時ころ、狩々が怒鳴りこんでくる。
p.141 “玄関ポーチの横には、掌サイズの真っ白い雪だるま”→雪が降り始めた十六時半ごろに麻美は宿舎の辺りをうろついており、雪だるまは作れない。狩々の手には山吹色の絵具がついていた。p.336参照。
p.147 “本当に危ないと感じたものからは、一目散に逃げるべきだと思うんです”
29 151   狩々によれば、十六時半ごろ娘の麻美がカリガリ館をでて、宿舎を眺めていた。急に名前を呼ばれ、マスクで顔を隠した結合人間がいたという。双里が謝罪する。「約束を破る者に命の保証はないからな」  
30 154   三号室で丘野と圷が会話。圷がシャワールームに行き戻ってくると、トイレからでてきた丘野が胸を押さえている。「なんでもねえよ。気にすんな」三号室に戻り眠りに落ちる圷。 p.155 トイレの“汚れた床板に赤い斑点がついていた” 胸を押さえていたのはアカゴダニに遭遇したため。p.202参照。
31 156 二日目、十二月二日。午前六時五十分、目覚めた圷が玄関に行くとスニーカーが減っている。丘野がカリガリ館に押しかけているのではないか。十五分ほどかけて中腹を過ぎると、四メートルくらいの白いゴム紐が落ちているのに気づき、茂みの奥へ放りこむ。七時二十分、カリガリ館の玄関ポーチに丘野をみつける。七時二十五分、電話の呼び出し音が聞こえてくる。八時までは待つことに。
p.157 “山頂のカリガリ館までは、走っても二十分、歩いたら三十分”
32 160   同じころの宿舎。七時十五分に小奈川が目を覚ます。食堂で今井と浅見から、双里が熱を出していること、圷と丘野の姿がないことを知る。今井によれば、七時に館へ電話したが出たのは麻美だったという。薬をもらうため今井がカリガリ館へ行くことに。小奈川は今井に頼まれ、浜辺に圷たちがいないか探しに行く。
 
33 163   七時五十分、今井がやってくる。フランス窓を覗いた丘野が、アトリエで倒れているカリガリをみつける。丘野は六時半から館の周囲をうろついていたという。二回の子供部屋で麻美の死体と、Y字のヒビが入った果物ナイフをみつける。丘野が気を失い、今井に運ばれ宿舎に戻る。浅海と会話し、浜辺へ行った小奈川を今井が呼び戻すことに。浅海が淹れたコーヒーに口をつけると、圷は意識が遠のく。 p.169 狩々の寝室には「悪霊教室」のビデオが並んでいた。
34 172 圷が医師にオネストマンだと告げられたときの夢。十二時、食堂に双里以外の五人が揃っていた。今井の主導で事件について話しあうことに。浅海、小奈川、今井も二時間ほど前にカリガリ館に行ってきたという。二人の死亡推定時刻は午前六時から八時、ただし今井は七時に麻美と電話している。麻美は死後三十分以上後に念押しで胸を刺されている。凶器の位置を合わせて考えると他殺で間違いない。丘野と圷は七時二十分から正面玄関を見張っていたが人の出入りはなかった。するとカリガリ館は密室だったことになる。オネストマンなら嘘をつけないはずだと、殺害を認めるか全員に質問してみるが空振り。  
35 186 宵時、丘野が浅海犯人説を唱える。ジョイントマンだった狩々が軟禁されていた病院に浅海は勤務していたのではないか。七時二十分、ゴム紐のことが話題になり、今井、丘野、圷の三人で山道へ。丘野が六時二十分に通りかかった時点で紐は圷が目撃したのと同じ状態だったという。今井が、狩々の仕掛けた罠説を唱える。二十時、崖下の砂浜に到着し、鉈を拾う。ゴム鉄砲の要領で鉈が飛んでくる仕掛けだった。犯人が罠にひっかっかったのではないか。二十時五十分、宿舎に戻る。娘のことを思いだす圷。
p.187 丘野の身長が上陸時より低くなっていることに気づく。→結合人間になったため。p.344参照。
36 198 三日目、十二月三日。平穏。今井と丘野は手掛かりを探しにカリガリ館へ足を運んだが、他の五人は自室に籠もりきり。十六時過ぎまで圷と小奈川は昔話に花を咲かせた。アカゴダニがでたと丘野が食堂に駆けこんでくる。二十二時過ぎ、シャワーを浴びた後で浅海と鉢合わせ。双里のことで口ごもる。三号室に戻ると丘野が扉を閉めたくないと主張。眠りに落ちる圷。 p.199 地の文で“カリガリ島に漂着して三日目、十二月三日”と記述されている。
p.201 アカゴダニは赤い体液の痕跡を残す。
37 204   二十三時過ぎ、丘野に起こされる。窓の向こうに白い四本足が歩いているのが見える。追いかけようと三号室を出た丘野がアカゴダニに遭遇して気絶。圷は丘野を三号室へ戻すと、夜明けを待つことに。  
38 207 四日目、十二月四日。朝食の席で、昨夜の不審な人影のことを話す。質問により、双里は不審な人影は自分だと認める。 p.209 今井は“外を歩く不審な人影を見たらしい”がそれはあなたかと訊き、昨夜のことに限定していない。
39 210   部屋にこもっていた圷たちを浅海が食堂に誘う。六人が食堂に集まり、浅海の口から双里は羊歯病を発症したと告げられる。圷が映画「あかいひと」で知られる前の羽家監督と杯を酌み交わしたときのことを回想。双里を自殺させないよう見張ろうと約束する。日が沈むころ、雪が吹き荒れる。  
40 216 10 五日目、十二月五日。六時過ぎに目を覚ます。七時を回り食堂に六人が集まる。カリガリ島は白雪に覆われていた。十三時過ぎ、圷がコーヒーを啜っていると今井が姿を見せる。狩々親子殺しについて会話。オネストマンばかりなのに犯人がわからない理由として可能性を三つ挙げる。第三の説を唱えようとしたところで浅海が駆けこんでくる。双里がどこにもいないという。
p.220 今井が挙げたのは無自覚説と忘却説(神木の夢遊病)。
41 223   十四時三十五分。今井、圷、浅海、小奈川が玄関先に顔を揃える。双里を捜すべく、今井は時計回り、圷は反時計回りで海岸線を回ることに。今井は山道に沿ってカリガリ館まで、浅海は樹林や海岸を捜索することに。丘野と神木は役立たずとして声をかけなかった。海岸に来た圷がけつまずく。誰かが物を埋めたのか盛り土があった。雪崩に呑みこまれる。 p.225 盛り土は結合人間スーツを埋めた跡。p.345参照。
42 227   十六時四十三分。圷が意識を回復。左後ろ足を骨折していた。宿舎まで運ばれながら経緯を聞く。丘野に発見されたという。となりの二号室から双里の「痛い痛い」という呻き声。小奈川が発見し説得したが、自殺を試みたらしい。十九時、キッチンにあった出刃包丁がなくなっていると丘野が指摘。二十時過ぎにカリガリ館の玄関ロビーで神木の死体がみつかる。  
43 231 11 三号室に籠っている圷。今井、小奈川、浅海、丘野はカリガリ館へ現場検証にでかけている。二十三時十五分、四人が戻り遅めの夕食を摂ることに。今井が今日起きたことを整理する。犯人は十七時五分から十九時の間に包丁を持ちだしたはず。カリガリ館へ向かう結合人間の足跡は、今井(双里を捜索時のもの)以外に、もう一往復分が増えていた。恐らくそれが犯人の足跡であり、神木は犯人に言いくるめられ、別ルートでカリガリ館へ向かったのではないか。神木の死体を発見時、丘野はまた倒れたという。浅海に寄れば、神木の死亡推定時刻は十四時半から十八時半。凶器のことと移動時間を考慮すれば犯行は十七時半以降に絞られる。圷は足を骨折、浅海は双里を看病し今井も二号室を出入りしている。小奈川、丘野はアリバイなし。圷が、犯行現場は別の場所の可能性があると指摘。犯人か質問するが、全員が否定。今井が第三の可能性として、ノーマルマンが二人交じっていると主張。
整理結果は以下の通り。
十四時過ぎ、双里が姿を消したと浅海が気づく。
十四時五十分、小奈川が双里を発見。双里は崖から身を投げる。
十六時過ぎ、小奈川と浅海で双里を宿舎へ運ぶ。丘野が駆けこんでくる。
十五時、丘野は雪崩に遭った圷の悲鳴を聞いた。
十六時、丘野は圷を発見した。浅海を呼びに行った。
十九時前後、丘野が出刃包丁の消失に気づく。今井によれば十三時に、小奈川によれば十七時に、浅海によれば十七後五分にキッチンで包丁をみかけたという。
44 246 12 六日目、十二月六日。三号室に籠もる圷。今井と丘野は神木殺しを調査すべく、ほとんど外出していたらしい。夕食に顔をだす。今井は真相のめどがついたという。部屋に戻る。丘野が調査結果を話す。西側の砂浜に足跡があった。夢遊病のための睡眠薬の薬瓶と注射器が落ちていた。砂浜で足跡が百メートルほど途切れていた。満潮時に海水に沈んだらしい。十五時から十九時まで海水に沈み、歩けなくなるとわかった。となると十五時より前に神木はカリガリ館へ行ったことになるが、二時間以上もなにをしていたのか。丘野によれば、今井は山道の足跡(下り)を調べていたとき、石ころを隠したらしい。雹によってガラスが割れ、丘野が白目を剥いて倒れる。 p.251 今井が拾った石ころに見えたものは、後に貝殻だと判明。p.279, p.299参照。
45 252 13 七日目、十二月七日。双里の死亡が確認される。雹の被害は北西の窓、三号室と四号室に集中していた。九時過ぎ、朝食の席で今井が、定期船を見落とさないよう山頂で待機すべく、カリガリ館へ行くことを提案する。十一時半過ぎ、山頂に到達。レンガ積み倉庫の窓が粉々になっていた。確認のため今井と丘野が中へ。二階の窓は高さが六メートルくらいあり覗けない。丘野がアダルトビデオを手にして戻ってくる。  
46 255   カリガリ館に入る。玄関ロビーには神木の死体が安置されていた。五人はダイニングキッチンへ。ビデオ「嘔吐症の妹3」のパッケージが濡れていないと丘野が指摘。今井が推理を説明しだす。犯人は狩々の死体に注目させることで館を脱出した。また、犯人はゴム紐の仕掛けにひっかかった。これでは親子以外の人物が山道を通ったことがわかってしまう。そこで「漂流者に殺されたように見せかけるため、狩々は宿舎の果物ナイフを使おうとして、宿舎へとりにいくとき仕掛けにひっかかった」と思わせようとした。ここから、ゴム紐の仕掛けは麻美が作ったと犯人は誤解していたことがわかる。その条件に該当するのは神木のみ。
 
47 265   神木が狩々親子を殺した動機を問われ、今井はわからないと答える。神木を殺した犯人について推理を述べる。神木は、自分が犯人だと知るもう一人のノーマルマンを襲おうとして返り討ちにあったのではないか。狩々の死体発見時に逃げた神木に気づけたのは今井、圷、丘野。神木殺しでアリバイがないのは丘野のみ。
 
48 267   丘野が、漁船で映画クルー三人に暴行したのは今井だと話す。今井が鉈の仕掛けに使われたゴム紐で丘野を縛りあげる。丘野が、狩々と浅海の共犯説を訴える。狩々は多重人格で、ゴム紐の仕掛けでもうひとつの人格を殺そうとした。麻美を殺し、山道でゴム紐の仕掛けにより果物ナイフが刺さり、館に戻って力尽きて死亡した。山道の血痕はアカゴダニが吸った。アトリエの血痕はニセモノ。浅海はデタラメな死亡推定時刻を口にした。今井に反論され、玄関ロビーからノックの音。  
49 274   玄関には二人の未結者がいた。トレンチコートの男と、ミントグリーンのヘッドホンをつけたセーラー服の少女。今井が少女の耳元に、茶織お姉ちゃんを虐めたのはあいつらだと囁く。定期船の乗組員は少女が殺したと今井が告げる。縛られてダイニングキッチンの床に這う丘野が罵声を上げると、少女が丘野の頭に鉈を振り下ろす。浅海も襲われる。小奈川が圷の手を引き逃げる。頭の割れた丘野が少女に体当たりする。圷が少女に反撃しようとするが、今井に鉈を奪われる。圷は奪い返した鉈で今井に振り下ろす。丘野と共に少女に反撃する。トレンチコートの男を追いかけると、崖のふちにいた。寺田ハウスの三人が姪を監禁、殺害したため、報復のため今井を雇ったという。後ずさりしたトレンチコートの男が崖から落ちる。 p.276 「ふざけているのは丘野さんですよ。彼が余計なものを見ていなければ、全員で本土へ帰れたのに。残念です」→余計なものが、漁船で今井が映画クルー三人に暴行したことだとすると、今井は丘野をオネストマンだと思っていた?
p.279 (今井に鉈を叩きつけたとき)”折り畳みナイフと貝殻が、ポケットから床に散らばる”
p.280 “「お前、まさか――」男はまっすぐ丘野を指さして後ずさりした。”
50 281 14 十九時過ぎ、圷、小奈川、丘野は宿舎に戻る。その途中、男と少女が乗ってきたらしいクルーザーを発見した。シャワーを浴びて三号室で眠る。 p.282 (クルーザーの確認中に丘野が落とし)“手すりの向こうの海面に鉈が浮かんでいた”→ゴム紐の仕掛けが発動したなら、満潮時に浮いたはず。p.334参照。
51 283   八日目、十二月八日。食堂で朝食。丘野はマスク(頭部だけの結合人間スーツ)をかぶっていたと明かす。『つぼみハウス』に出演した映像作家ヒロキであり、川崎千果と結合、千果の父親への障害で警察に手配されているという。小奈川が、今井の推理について矛盾を指摘する。狩々の死体を子供部屋からアトリエへ運んだなら、アトリエの血痕が説明つかない。鉈の仕掛けもゴム紐を持ち去るだけで良い。  
52 289   三日目の夜、宿舎の外をふらついていたのは双里ではなかったと小奈川が推理する。人影の四本脚は白かったが、羊歯病を発症していた双里なら昆虫まみれになるはず。双里が自分のことだと認めたのは、麻美に声をかけたことだった。双里は浅海と顔見知りであり、浅海に声をかけたのを同じ音から麻美は名前を呼ばれたと勘違いしたのではないか。  
53 293   丘野が、人影の正体を推理できると言う。四号室の浅海と小奈川は三号室の前を通らなければ玄関を出ることができないが、アカゴダニ騒動で扉を開けていたので丘野が気づくはず。今井は日焼けしているので除外。したがって人影は神木だった。ただし夢遊病のせいかもしれず、ノーマルマンとは断言できない。
 
54 295   神木を殺した犯人がわかるかもしれないと小奈川が言う。三日目に神木が夢遊病を発症していたなら、麻酔薬を落としたのはそれ以前の可能性があり、殺された五日目に海沿いルートを通った証拠にはならなくなる。今井が拾った貝殻からすると、犯人は海沿いルートでカリガリ館へ行き、山道で宿舎に戻ったことになる。だが、それだけでは犯人まではわからない。  
55 301   犯人の条件がわかったと圷が言う。犯人が行き帰りで別のルートを使ったのは、恐らく満潮で海沿いルートが使えなくなったから。十五時前にカリガリ館へ移動したはずだから、宿舎の出刃包丁は本当の凶器ではない。アダルトビデオのパッケージが濡れていなかったのは、犯人が倉庫から刃物を盗むため窓ガラスを割ったのではないか。二階の窓は六メートルの高さがあるため、二人が一方を肩に乗せなければ届かない。犯人はノーマルマンの二人組だと考えられる。だがアリバイからは犯人を絞れず、丘野が「上昇と下降」を指さし堂々巡りだとぼやく。圷が、犯人がわかったと告げる。
 
56 308   圷が犯人ならば、丘野がノーマルマンのはず。丘野が十五時に雪崩に呑まれた圷の悲鳴を聞いたという丘野の証言が嘘でなければならない。
丘野が犯人ならば、双里がノーマルマンのはず。丘野は背が低いため、六メートルの高さの窓に届くには双里と組む必要がある。
双里が犯人ならば、小奈川がノーマルマンのはず。崖から双里が身を投げたという小奈川の証言が嘘でなければならない。
小奈川が犯人ならば、圷がノーマルマンのはず。圷が小奈川はオネストマンか確かめるため健康診断結果を盗んだことが嘘でなければならない。
犯人はノーマルマンの二人組という条件から、圷、丘野、双里、小奈川が犯人という仮定は成立しない。よって浅海と今井の二人が神木を殺したと結論される。
 
57 312 15 正午が過ぎる。今井と浅海が犯人ならば、狩々親子殺しはどうやったのか。麻美の二つの傷跡から犯人が六時半まで館にいたことは確実、丘野の目を盗んで逃げたとしても、山道で圷とすれ違うはず。小奈川が、コーヒーで圷が睡魔に襲われたことなどから、睡眠薬によって空白の一日が作りだされたという説を唱える。
空白の一日説は、p.332にてヒメコが否定する。定期船が一日早く来るはず。
58 320 * * * 十二月二十四日の深夜、カリガリ島こと東呉多島での大量変死事件が報じられる。二十四日の早朝、海上保安庁の捜査隊員の手で圷たち三人が保護された。事件発覚から半月が過ぎた土曜の夜、圷のもとに娘から着信があった。会うことになり、圷は目印として『つぼみハウス』のTシャツを着てくることに。翌週の土曜日、台東区にある娘のマンションへ。  
59 325 エピローグ 羊歯病患者のための病院で処方箋を受けとり、外にでるが、処方箋をコンビニのゴミ箱へ放りこむ。翌日、処方箋をもらいなおす。ドラッグストアで薬をもらい、自動扉を抜けようとしてヒメコに話しかけられる。ヒメコのマンション「浅草ハイランドスクエア」の五階へ。先月に波多江ミナトと入籍したが、ミナトは仙台の親戚の家に帰っているという。ヒメコが推理を述べる。
p.331 “実はあたしの知り合いにもう一人、事件の関係者がいるんだよね”→恐らく圷のこと。

登場人物一覧

プロローグ

7 丘野大樹 気鋭の映像作家ヒロキ。「つぼみハウス」出演者。 7 川崎千果 人気モデル。「つぼみハウス」出演者。

少女を売る

23 丘野萌子 オナコ。ビデオの幼なじみ。 23 根津稔 ネズミ。寺田ハウスのリーダー。 23 栗本秀夫 ビデオ。オナコの幼なじみ。 23 瀬川栞 中学生。寺田ハウスに監禁された少女。 41 茶織 中学生。寺田ハウスに監禁された少女。 45 中村大史 アダルトビデオ愛好家。 54 真谷日向子 ヒメコとして寺田ハウスで売春。学校ではダニと呼ばれる。 54 川崎ヒロシカオリ 川崎千果の親。丘野大樹に殴打された。 56 波多江ミナト ヒメコを注文した客。

正直者の島

99 今井イクオクルミ 映画出演者。オネストマン探偵。浅黒い肌、スーツにネクタイ。 115 圷ミキオミサキ 映画出演者。フリーライター。小奈川の元教え子。 115 小奈川ヨウスケミイ 映画出演者。先々月まで高校教師だった。 119 浅海ミズキハルカ 映画出演者。元内科医。 132 丘野ヒロキチカ 映画出演者。無職。 133 双里ワタルカオル 映画出演者。イラストレーター。マスクとレザーキャップ。 136 神木トモチヨ 映画出演者。三年前まで生命保険の外交員。宗教かぶれ。 128 狩々ダイキチモヨコ カリガリ島の住人。十年ほど前に姿を消した画家。 152 狩々麻美 狩々ダイキチモヨコの娘。十五歳。 275 (トレンチコートの男) 姪(茶織?)が監禁殺害され、報復のため今井を雇った。 275 (セーラー服の少女) 茶織を慕っていたと思しき少女。 337 (子供) 狩々の子供。

非主要人物

15 座間 オネストマンのメンタルケアをしている専門医。 36 羽家 映画『あかいひと』の監督。 58 フミ 波多江ミナトと交際していた人物? 75 須賀家 栞の友だち。 75 掛井 栞の友だち。 98 (操舵手) 呉多島への漁船の操舵手。サングラスにスキンヘッド。

備考1:けっきょく誰がノーマルマンだったのか?

 今井と丘野(オナコ)は確実。神木は可能性が高い。双里も可能性がある。

備考2:なぜ「上昇と下降」の推理は成立しないのか?

 前提となる、犯人はノーマルマンの二人組という仮定が成立しないから。
 神木殺しのためには刃物を倉庫から持ってきたはず。六メートルの高さにあるため結合人間の二人組だと推理した。
 ところが、ゴム紐の仕掛けは鉈だけではなくふたつあった。もうひとつの仕掛けから丘野(オナコ)は包丁を得た。