2015.07.19(日)、MYSDOKU16に参加してきました。課題本は久住四季『星読島に星は流れた』。15時半から17時45分まで2時間15分。会場はJR蒲田駅近く、大田区消費者生活センターの第1集会室。
 以下、印象に残ったことをかいつまんでレポートします。話題に沿って会話の順番を一部整理しています。走り書きのメモからの再構成ですので、言い回しなど正確さについては乞うご容赦。
 なお、MYSDOKUスタッフの秋山真琴さんによるTogetterでのリアルタイムまとめは以下。

MYSDOKU 16まとめ - Togetterまとめ
http://togetter.com/li/850868

海外ミステリに偽装されたキャラクター小説

 午後三時十五分、会場到着。三時半に開始だから、ちょうどいい頃合いだなと思っていたら、すでに私以外の全員が到着していた。ホワイトボードに星読館の平面図まで描く熱の入れよう。
 あわててレジュメ(行動表)を配布する。なぜか、そこかしこから笑い声が。端的な事実を簡潔に整理しただけの客観的な資料よ~?

館の平面図

 まずは自己紹介から。あわせて刊行間近あるいは積読から、期待している作品を紹介することに。
 sasashinさんによれば、アニメ『放課後のプレアデス』をSF作家の菅浩江がノベライズ予定だとか。ありきたりな魔法少女ものという事前予想を裏切って、大宇宙のロマンと思春期のみずみずしい心を重ねて描いた良作。
 課題本の雰囲気にぴったりな作品をチョイスするなんてsasashinさん、さすがだね☆

 秋山真琴さんによれば、この小説を推薦してくれた○ッ○○さんは、アイ○ス10周年ライブのほうに行ってしまったとのこと。MYSDOKUのライバルはア○マスです☆
 続けて簡単に秋山さんから、久住四季という作家について説明がされる。2005年に電撃文庫から『トリックスターズ』でデビューした。当時の電撃文庫はミステリに力を入れていたという。Wikipediaによると「森チルドレン」の登場だと話題になった佐竹彬『飾られた記号 The Last Object』と同時刊行だったんですね。

 魔法が実在する世界を舞台としたミステリ作品として〈トリックスターズ〉シリーズは本格ミステリファンの間で話題となった。しばらく作品発表が途絶えていたが、ライトノベルレーベルではない東京創元社から新作を刊行し、一般文芸への越境を果たしたことが話題となった。
 なお本作で復活を果たす少し前、2014年11月の第19回文学フリマで頒布されたアンソロジー『Juke books 2』にて短編「神様の次くらいに」を発表している。家電量販店の開店前行列を題材に「日常の謎」を描いた作品。
 ちなみに秋山さんは自身が編集長を務めたオンラインマガジンで、久住四季へのインタビューや作品紹介をしている。

オンライン文芸マガジン『回廊』第13号
http://magazine.kairou.com/13/index.html

 往時のライトノベル作品と異なり、本作にはSF設定もなく、淡々と話が進む。これまでのチャレンジングな作風を知っていたからこそ、読み始めは若干心配になったと秋山さん。けれど、そのオーソドックスな本格ミステリぶりに「いいね!」と不安が解消されたとのこと。

 持参したレジュメを簡単に説明。そもそも本作は、西暦何年に起きた事件を描いているのか?

 という条件から特定できるのではと期待し、試しに2010年から2014年をチェックしてみたけれど、2012年、2013年、2014年のどれも該当してしまって轟沈。
 ロンドンで老紳士が通りを何度も往復していたというマッカーシーのクイズ(p.134)がヒントかと思い、ネット検索してみたけれど該当しそうな現実の事件などはみつからなかった。
 sezmarさんによれば、ダークフライト(p.140)が映像で初めて観測されたのは2012年6月(下記URL先参照)なので、その頃ではないかとのこと。この映像が本物だと確認されるのに二年を要したそうなので、2014年なら小説内の会話でそのことが触れられるのではないか。となると、2012年あるいは2013年の出来事ということになるのかしらん。

輝かない隕石「ダークフライト」を初観測 - エビ風サイエンスミネストローネ
http://scienceminestrone.blog.fc2.com/blog-entry-39.html

 参加者一同、キャラクター小説としての良さに話が弾んだ。
 海外小説風だけど、それは見かけだけ。主人公がモテるのはお約束。安心できるステロタイプでコバルト文庫の少女向け小説を思わせるとおがわさん。キャラクター描写を大切にしながら本格ミステリたろうとする姿勢は、ライトノベルの頃から同じだとtanatoさん。
 アレクは、自己紹介ではサラ博士にフルネームで呼ばなくていいと断っていた(p.65)のに、盤から隕石を相場で譲ると提案されると感極まり、自分からフルネームを名乗っている(p.320)と秋山さん。
 登場人物同士の仲が良く、雰囲気が悪くならない。孤島ものにつきものの「犠牲者が増えるにつれ、誰もが犯人に思えて疑心暗鬼に!」という展開がない。島への訪問客たちの後ろ暗い過去ではなく、金銭的価値の高い隕石の奪い合いという動機が明確だからかもとみっつさん。

 隕石が同じ島に何度も落ちてくるという謎については、各人の反応はさまざま。どことなく浮世離れした雰囲気に呑まれてスラッと読み進めた人も入れば、眉に唾をしていた人もいた。
 ありえないことだとは思いつつも、どこか信じてしまう気持ち。隕石が再び本当に落ちてきたという体験がマッカーシーに衝撃を与え、そしてすべてが始まった。ファンタスティックさと欲望渦巻く俗世とが交わる一点で殺人が起こる。
 帯に米澤穂信が寄せたことば“天上へのあこがれと地上の欲求とが交わる一点で殺意が生まれる、その構図が美しい”が実に至言。
 あらま草さんは、サラ博士を木星にたとえるメタファーを美しく感じたという。たとえ誕生日を迎えても、祝ってくれる人がいなければ、それは無かったのと同じようなもの、時が止まるのと同じこと。
 二十七年前に学生だった(p.123)なら現在は五十代前後のはずだけど、盤と初めて会ったときの印象は信じがたいほど若々しかった(p.60)。サラ博士には毎日が地球最後の日だったこと、サラ博士が自身を木星にたとえたこと。宇宙の恒久的な姿とサラ博士の変わらなさは重なりあっている。
 もしくは、本当に若いのかも。サラ博士も美宙と同じく飛び級したとすれば、二十七年前に学生だったとしても盤と年齢が大して変わらないこともありえる。この小説に描かれたのは、元天才美少女博士(不思議ちゃん)と現役天才美少女博士(ツンデレ)とのプライドを賭けた戦いだったのだ!

驚愕の真相がいま明かされる? 真犯人はコイツだ!

 おがわさんは、スパイ・スリラーっぽい展開を期待してしまったとのこと。実はサレナの正体は、中国のスパイ。アレクはCIA、デイブはFBIの捜査官。彼らは隕石によるマネーロンダリングを調査しに来たのであった。
 sezmarさんは、今年も本当に落ちてきた可能性を考えたという。隕石がみつかった場面(p.150)でのマッカーシーの描写は演技をしているように思えない。

 サラ博士とハワイへ一緒に行くことを盤は断ったけれど、案外誰かが代わりにハワイへ行ったかもしれない。そう考えることにはちゃんとした根拠があるのですよと一人の男が長い説明を始めるのだった。
 盤がサラ博士の意図に気づいたのは、隕石の専門家であるサラ博士が、隕石が割れた可能性に言及しなかったから。だが、その可能性に気づきうる人物は他にもいる。美宙、デイブ、サレナの三人はアマチュアであり、事前の身辺調査から専門的な知識はないと判断したかもしれない。だが、マッカーシー、エリス、アレクはどうか。
 マッカーシーについては、心配ない。何度も隕石が落ちてくる島という作り話についてはサラ博士と共犯関係にある。そもそも隕石を用意したのはマッカーシーだ。割れた可能性については気づいていただろう。それを参加者に気づかれたところで「おや、確かにそうだ! ううむ、プロの俺がうっかり見落とすところだったな! よし、辺りを探してみよう……みつからないな。残念、海にでも落ちてしまったんだろう!」と言いくるめるだけでよい。
 だが、エリスとアレクはそうもいくまい。サラ博士としては、隕石が割れた可能性を皆の前で指摘されてしまうと、マッカーシーを殺すシナリオへサレナを誘導することができない。
 サラ博士は、それすら偶然に任せていただろうか? そうかもしれないし、そうではない可能性もある。明確な根拠はないが、学生時代からのつきあいであるエリスなら、サラ博士の目論見を薄々感づいていたかもしれない。それならばアレクだって、本当は事情を察していたのかもしれない。
 だとすれば、一日目の夜の面談で、エリスやアレクに隕石が今年も「落ちてくる」ことを明かし、その隕石が割れていることには触れないでほしいと頼んだとしてもおかしくはない。
 この可能性を否定できないなら、その次へ想像を推し進めることもできるだろう。エリスやアレクはサラ博士に同情しつつも、危ない橋を渡ることをいい加減やめたがっていたかもしれない。それなら、サレナという都合の良い「隕石」が落ちてきた今年こそ、絶好の機会ではないか。いっそ、プロバビリティの犯罪(悪意があるとは知られ難い確率操作で、実現する保証は無いが目的の相手に危害を加える犯罪)などというまだるっこしい試みなどやめて、自分の手で確実にサラ博士の願いを叶えてしまってはどうか。
 マッカーシーをサレナが殺害した、というみせかけのシナリオを念頭に、マッカーシーとサレナの両方に手をかけた実行犯がいるのではないか。それはエリスとアレク、どちらだろうか。
 その手掛かりは、やはり隕石にある。隕石探しを主導し、他のメンバーをうまく誘導することで、逆に隕石が決してみつからないようにさせることが可能だったのは誰か。サレナを殺害し、美宙を台車ごと崖から突き落とすには、そもそも台車を館の近くに準備しておく必要がある。そのためには、どこかみつかりにくい場所に隠していた隕石と台車を館のそばへ移動させなければならない。三日目の夜、一人だけ部屋へと戻り、結果的に自由な行動が可能だった人物は……?
「とゆうわけで、盤の代わりにアレクがハワイへ一緒に行ったのではないかと」「「「長い! 説明長い!」」」

 妄想懺悔大会から、いつの間にかツッコミ大会へ。
 酔いが醒めた美宙がみんなを探して外に出て、うっかりスピーカーをみつけてしまうことは考えなかったのかとあらま草さん。サレナが崖から落ちると期待するのは無理があるとすがるさん。真っ暗な森を進めば必ず崖に落ちる(p.307)とあるけど、真っ暗だったのは盤が懐中電灯の明かりでこちらの居場所を知られるとまずいと判断した(p.218)からだよね。
 もちろん、サレナの殺害がうまくいったのは幸運に過ぎず、サラ博士はプロバビリティの犯罪を為そうとしていただけかもしれない。でも、それなら殺し屋を雇ったほうが早いのではと秋山さん。毒を盛ってもいいよねとsasashinさん。
 まあ、車椅子を手放せないというハンデもあったし、なにより隕石のメタファーを実現したかったのでしょう。意外にサラ博士って、メルヘンチック☆だったのでは。

 某担当編集様から情報提供。日本では、隕石は最初に拾いあげた人物のものになる。所有権の問題が絡んでくるためアメリカを舞台にしたとのこと。
 一日目の晩に面会をし、サレナは偽犯人候補として有望とみなされた。そういった有力候補がいない年は、隕石が落ちてこなかったことにしたのかもとtanatoさん。
 心に不安定さのあった美宙や盤も偽犯人候補だったのか。でも、それならデイブはなんのために招かれたのか。ひょっとしてデイブと盤は、ハワイへ連れていく婿候補だったのではないか。
 デイブがサラ博士の欲求解消説を唱える(p.95)のは、面談の最中に婿候補としてモーションをかけられたからではないか。それがうまくいかなかったサラ博士は盤の面談に備えてシャワーを浴びたのであった。天才博士の計算オソロシス。
 サラ博士が盤に同行を断られ、すべてが計算通りとはいかず救われなかったのは、小説として良かったと秋山さん。ボストン駅のコインロッカーにわざわざ隕石を運んでいたことからすると、サラ博士は盤に断られることを予期していたのかもしれない。

クイーン風の論証から遠く離れて

 ミステリとして、デイブはあまり登場させる必然性が薄いように感じる。なお、美宙がツン期の間、盤が寂しい想いをしないようにというキャラクター小説としての必然性を除く。
 みっつさんがしんみりとした口調で、久住四季先生とは年が近いので、元ネタがあるデイブのセリフには共感できると云う。デイブは絶対、親が大金持ちですよねとsezmarさん。
 みっつさんがゲーム『STEIN;S GATE シュタインズ・ゲート』(2009年発売)にキャラクターを重ねてみる。牧瀬紅莉栖が美宙、デイブはダル。年の差カップルという点ではアニメ『TIGER & BUNNY』(2011年放映)を思わせる……という話題から、なぜか私がタイバニを観ていないことを反省させられる流れに。あれは女性向けのアニメと認識していたのですが違いましたでしょうか。

 sezmarさんによれば、本作はシリーズ続編が予定されているらしいとのこと(ネット検索したけど、ネタ元不明)。
 きっとデイブの親(大富豪)の山荘に招待されるんだろうなと秋山さん。そして愛車のエンジンはかからず、ヨランダにあきれられ、ディランは昼飯をごちそうしそびれる。
 果たして美宙はそれまでにツンを再充填しきっているのか、それとも美宙・“K”・シュライナーになってしまっているのか!?
 サラ博士のキャラクターについて、ひとしきり議論。マンガ化されれば、いっちゃってる感じがわかりやすくなるのではと秋山さん。むしろ、背景でタンポポが咲いているような天然博士キャラをイメージしていたとおがわさん。みっつさんが、この手の天才博士が登場するミステリ作品では、博士って途中で殺されるものですけどねと指摘すると、みんな悪い記憶がフラッシュバックしたかのようにうんうんと頷く。

 隕石が割れたことが最大の手掛かりだったという点については、はっきり断面(p.155)と言っているのでフェアではないかとおがわさん。まあ、実験によって十二番のボトルだけ流れ着くのは本格ミステリ特有のファンタジーだよね。人間の死体とボトルとでは、形も大きさも重さも違うしね。
 できるだけシンプルに見えるよう進めていく手際が素晴らしい。隕石を奪うという動機が初めから明らかで、サレナの死によって犯人も明らかになる。盤は疑問点を整理し、ロジックの出発点である、隕石が割れたことだけが最後に残される。
 エラリー・クイーンの主に初期の作品では、謎解きの場面で長々しくロジックの糸が紡がれる。近年の国内ミステリ作品は初期クイーン風の論証を範とすることが多い。
 トリックさえあれば良しとはせず、ロジックを重視しつつも洗練された形で提示する本作のような作風は、近年の国内ミステリから類似作を思いだせない。

 最後に皆さん一人ずつ感想を述べて終了。携帯電話を持っていた(p.5)盤が、ラストではスマートフォン(p.291)に変っている。さりげない描写で心境の変化を表現していますねとおがわさん。
 結論。ぜひ〈トリックスターズ〉シリーズの第二部を東京創元社から刊行しましょうね!そのためにもみんな〈トリックスターズ〉シリーズ既刊を読もうね!
 でも杉本@むにゅ10号がお勧めする久住四季ベスト作品は『七花、時跳び! Time-Travel at the After School』です☆彡