蔵竜の間、臥虎の間で、それぞれどのようなやりとりがされていたか表に整理した。この文章の後にそれを載せる。もし小説の内容について記憶が薄れているようであれば、そちらを先に参照していただきたい。

 歴史の表(蔵竜の間)における双龍会では、次の事実が明かされた。結論としては、大和に変装した論語が落花を殺害したことになる。

 歴史の裏(臥虎の間)における双龍会では、黄昏卿(正体は慈恩)から落花の抹殺指令を受けた大和が、青蓮院で落花を殺害したと偽装すべく、表向き黄昏卿に殺人疑惑がかからないよう、鴨川デルタで人形を濁流に呑ませたと結論された。

 それでは客観的事実として、九月二十一日の午後四時に、賀茂大橋から流が鴨川デルタに目撃した人物は、けっきょく誰だったのか。
 落花が生きており、現場からはウィッグがみつかっている。やはり濁流に呑まれたのは人形だったのだろう。論語は大和とグルであり、大和と思われた人物は間違いなく大和だった。あるいは、あくまで流を騙すことが目的なので、どちらでも良いとも云える。

 すると蔵竜の間で語られた、撫子と再び双龍会で争いたかったという心情は嘘だったのか。
 最後の場面の“あの時、誓ったのだ。必ずこの支配から逃れてやると。そして彼女のために自分の人生の残額を使ってやると。”“彼女にとって忘れられない人間になれた筈だ。最高の記憶だって手に入れた。あとの人生は余分……そう思っていたのに、どうしてこんなに虚しいのだろう。全て納得ずくの行動だったというのに。”(p.222)という内的独白を注意深く読む必要がある。
 大和と落花は黄昏卿への仇討ちを目標としていた。論語はそれに賛同したが、最終目標は違ったのではないか。クローンのため寿命が短い(デザイナー・チャイルドなら、そうではないが)可能性がある論語は、撫子のために生きようとした。その目標地点は、撫子が論語と腐ることなく縁が切れ、兄の大和を追い続けられるようにすることだった。表の歴史として刻まれた、論語の敗北こそが論語の目標だった。
 「最高の記憶だって手に入れた」という一文からは、双龍会で再び争いたいという気持ちも嘘ではなかったことが読み取れる。だが、それはただ無我夢中で争うことだけを意味しない。撫子の幸福のために負けることまでが計算に入っていたのだろう。

 では撫子の心情はどう移り変わったのか。シリーズ前作『今出川ルヴォワール』のラストで、撫子は論語ではなく、失踪した兄の大和を選んだ。それは夢のなかで父、山風に云われた通り“論語君を大和の代わりだと思てたから”(p.52)だろう。その背景には“お前は落花がおらんようになった時の、代・わ・り。まがいもの”(p.53)ではないかという不安があった。
 前述のとおり、論語のたくらみによって、落花は龍樹家のルールを破ってまで論語を殺そうとし、返り討ちにあった、と信じ込まされた。だが終幕に至り、撫子はそれでも論語を愛す決意を固めた。
 双龍会の中盤に論語は、落花と撫子の入れ替わり説を提示した。落花の死と再生のシークエンスは無上の落花戻しとして実を結び、龍樹家が再び盛り返す機会となる。だが撫子は自分を落花だと偽ることを選ばない。
「私は龍樹撫子。才能が及ばなくて龍樹落花にも龍樹大和にもなれなかった……だからこそ、素直に仲間を頼れるのよ。そういう当主がいたっていいって、今なら思える」(p.155)
 このセリフが終幕の撫子と論語のやりとりにつながっていることはもはや説明不要だろう。

 最後にひとつ、言い添えておきたい。「「まあ、どちらでも同じこと……」」(p.91)とは、けっきょくなにを意味していたのだろう。
 直前の「ねえ、撫子がぼくの妹として現れるのか、それとも君の恋人として現れるのか……楽しみじゃないかな?」(p.90)という大和のセリフと双龍会の展開からすれば、それは撫子がどちらと争うことを選ぶのか、という意味だったのだろう。論語と争えば、なぜ撫子を裏切り青蓮院に入ったのか理由を追求することになる。大和と争えば、黄昏卿に反旗を翻すことになる。
 客観的事実としては、撫子は論語を選んだ。あらかじめ落花からのコンタクトを受けていた達也は、撫子に論語を選ぶよう誘いかけている節がある。休憩時間に、黄昏卿を本気にさせてもいいことは何もない、自分一人なら付き合えるが満を巻き込みたくはないと進言している(p.128)。
 仮に、それでも撫子が大和を選んでいたなら、どうなったか。落花の狙いは黄昏卿への仇討ちであり、慈恩を闇に葬るつもりだったことを撫子に明かしていない。したがって臥虎の間で黄昏卿と、撫子に扮した落花が争うことは必須条件となる。
 必然的に、蔵竜の間で撫子と大和が争い、臥虎の間で落花と論語が争うこととなっただろう。大和と論語はグルのため、青龍師が論語に代わっても、いずれにせよ臥虎の間では黄昏卿の正体が暴かれる結末に至る。
 つまり、撫子が論語と大和のどちらを選ぼうと、落花と大和の目標である仇討ちは果たされる。その意味で、どちらでも同じだったわけだ。だが、撫子がもし大和を選んでいたならば、再び撫子と双竜会で争いたいという論語の願いは叶わなかったろうし、撫子も論語の動機を深堀りすることはなかっただろう。
 必然的にこの結末も無い。この甘やかな幕切れは、必定の運命などではなかった。ひとつ選択を誤っていれば訪れることのなかった幻の光景だ。決してどちらでも同じなどではなかったことを心に留めていただきたい。

※円居挽『河原町ルヴォワール』(講談社BOX 2014年3月3日 第1刷発行)に基づき作成した。

No. 蔵竜の間 臥虎の間
1 第二章 十五時二十五分(p.96)  
2 ▼撫子の主張
蔵竜の間に役者が出揃う。主役を演じるつもりでいて欲しいと撫子に論語が頼む。
大和は落花を鴨川デルタに誘い出し、水流を利用して殺害したと撫子が主張するが、論語は不幸な事故を主張するという。計画殺人の根拠を問われた撫子は、
(1)待ち合わせ場所に鴨川デルタを指定したのは大和だとカマをかける。あっさり認める大和。
(2)鴨川デルタの上流に土嚢の痕跡があったことを撫子は明かす。意図的に濁流を作り出すため簡易堰を設置したとしか思えない。
(3)落花の携帯電話に録音されていた、落花と大和の会話を再生する。大和は濁流が来ることを予期しているかのような発言をしている。
(4)流が午後四時、大和に小突かれ落花が濁流に呑まれる様子を目撃した旨を証言する。
(5)賀茂川の発掘工事を大和からの申し出で認めたことを黄昏卿が肯定する。
「状況証拠、凶器、動機……ここまで揃えば御贖の罪はもはや決まったも同然。火帝、ご判断を」(p.105)
 
3 ▼論語の反論
火帝(黄昏卿)に促され、論語が反論を始める。
(1)落花の携帯電話には大怨寺の鐘の音(午後四時に四回)が録音されていた。だが流はそのことを証言していない。
 ⇒流の立っていた賀茂大橋は大怨寺と鴨川デルタの間にあるため、流に聴こえなかったとは考えにくい。
 ⇒任意車(声をもって人を操る技術)が得意な鳥野辺の助けを借りて捏造した音声データではないか。
 ⇒論語からの質問で、事件現場に居合わせたのは落花と待ち合わせをしていたからだと流は証言させられる。
(2)落花の携帯電話の通話記録を照合し『Guy』の履歴が削除されていることを示す。番号の主は犀義一(ギィ)だという。
 
4 十五時五十五分(p.114)  
5 (論語の反論の続き)
鳥官台についたギィは、落花が恋人であり、連絡用の携帯電話だと主張する。
しかし論語は、仕事用の電話だった可能性が高いと主張する。ギィのプライベート用の携帯とは番号が異なる。また、半年で十台の携帯電話を契約しており、仕事用に一台ずつ契約している。
(3)川端のホームセンターでギィたちが土嚢やセメントを買い込んでいるところを多くの人間が目撃している。
(4)大怨寺の電源が落ちていて、午後三時までは鳴っていたが、午後四時の鐘は鳴らなかった。すなわち、携帯電話に鐘の音が録音されていたことのほうが事実に反している。
 ⇒ギィと落花が携帯電話で最後に通話した三時四十五分の時点で、落花は鐘が鳴らなかったことを知らなかったのではないか。
 ⇒ということはつまり、三時四十五分の段階でギィは、大怨寺にいなかったのでは。高野川の仕掛けを動かすために。
 ⇒論語に午後四時頃どこにいたか問われ、下鴨の高野川沿いにいたと証言するギィ。
(★退廷するギィが、砕いたチョークを大和に投げつける。大和は白く染まった上着と帽子を傍の柵にかける)
 
6 ▼論語&大和の主張まとめ
落花は山風の命を奪った大和への意趣返しを狙った。流の証言や録音テープは、もし自分が大和に殺されても、有罪に追い込めるから。あるいは逆に自分が大和殺しの御贖になっても、無罪を勝ち取れるから。
▼論語と大和の仲間割れ
賀茂川(大和が仕掛けたと撫子が主張)と高野川(ギィ&落花が仕掛けたと論語が主張)、どちらが落花の命を奪ったのか。
高野川を主張する論語に、大和は待ったをかけ、なぜか賀茂川を主張する。どちらが青龍師を務めるか、撫子に決めてほしいと提案する二人。
「「まあ、どちらでも同じこと……」」(p.123)
 
7 第三章 十六時二十分(p.127)  
8 ▼休憩
どちらを選ぶべきか達也に相談する撫子。落花殺害に大和が絡んでいるなら、黄昏卿に反抗することになる。改変能力がある黄昏卿に逆らうのは得策ではなく、流まで巻き込みたくはないと頼む達也。
 
9 十六時三十五分(p.129) 十六時四十分(p.166)
10 ▼論点整理
(★これ以降、地の文で火帝が黄昏卿であるとは記していないことに注意)
流が、大和から伝言を預かっているという。論語こそが山風を殺した仇だという。それを認める論語。
火帝の提案で、双方が争点を整理する。論語は高野川が落花の命を奪ったと主張。撫子は、龍樹家には復讐の仕事を引き受けても命は奪わないルールがあり、したがって人を殺す仕掛けはしないと主張。しかし、かつて論語の祖父を殺そうとしたことを指摘され絶句する。
▼論点整理
(★これ以降、地の文で撫子の名前が記されていないことに注意)
着替えてきたのか、汚れのない上着で龍壇に登る大和。
(★p.167“時折本気で血縁があること忌まわしくなる瞬間がある”撫子と思わせて落花の心情描写であることに注意)
達也と流は証言できないと連絡があったことを大和が告げる。黄昏卿に促され、まずは両者の立場を改めて述べることに。
黄龍側・撫子[落花]は高野川説(落花がギィと組んで仕掛けた)を採る。青龍側・大和は賀茂川説(大和が仕掛けた)を主張する。
11 ▼撫子による賀茂川説
流が再び鳥官台に。どちらの川が落花の命を奪ったかは目にしていないという。
大和とは三日前の晩に雀荘で顔を合わせたのが初めてで、事件当時は面識がなかった。落花を殺したのは、大和の好む服装をした、論語だったのではないか。
▼撫子[落花]による高野川説
流の証言を、大和が準備していた録音から再生する。流が鴨川デルタに目撃したのは大和ではなく、論語ではないか。
 ←雀荘で流と大和が言葉を交わしている写真をスクリーンに映す。二人は知り合いであり、証言には信憑性がある。
 ⇒流がこの場にいない以上、反論の術はないとあきらめる撫子[落花]。
12 十六時四十九分(p.137) ▼大和による賀茂川説
撫子[落花]の詰問により、山風を殺した罪を糾弾されたことを大和が認める。
続けて撫子[落花]は、濁流が来るタイミングを解っていたからこそ逃れられたのではと言質をとろうとする。
だが逆に、撫子が午後四時頃には家庭裁判所にいたこと、何も聴こえなかったことを証言させられる。「了解。じゃあ、ここで青龍側のターンだ」(p.176)
スクリーンに動画を再生する。賀茂川の仕掛けは、水柱が立ち大きな音がする。しかもリモコンとの距離が悪かったのか、鴨川デルタからは動かなかったという。
 ⇒賀茂川の簡易堰の決壊は故意ではなく、増水による不慮の事故だった。
 ⇒落花とギィによる高野川の仕掛けも動いたはず。賀茂川の堰が決壊しようがしまいが高野川から濁流は生じる運命であり、その時点で落花の死は決まっていた。
13 (撫子による賀茂川説の続き)
(ギィにチョークを投げつけられ汚れた)柵に残された大和の上着と帽子を着るよう頼むが、固辞する論語。
「……なんなら着せてあげてもいいわよ?」「お願いします」「いいのかよ!」(p.138)
 ←論語は、男装の麗人として双龍会に立った過去がある撫子のほうこそ大和の代わりだったのではと反論する。「なんなら着せて――」「自分で着るわ」(p.140)
 ⇒事件当時、撫子は落花の指示で京都家庭裁判所にいた。事件を目撃した流から連絡を受け、賀茂大橋に駆けつけた。このときの通話記録もある。
 ←撫子が大和になりすましていた(家庭裁判所にいたのは嘘)だとしても矛盾しないと論語が反論する。
 ⇒大和らしき人影はしばらく川端にいたと流が証言。撫子との通話中、その人物は携帯電話を手にしていなかった。直前まで落花と話をしていたのだから、インカムをつけていた可能性はない。
 ←落花を殺すつもりで大和の格好をして鴨川デルタにいたことを認める論語。
14 ▼論語による高野川説
論語がスクリーンに動画を再生する。(論語が落花を殺そうとして)賀茂川の簡易堰に準備した仕掛けは爆発で水柱が立ち、大きな音がする。いざとなれば黄昏卿の力を借りるつもりだったが、けっきょく仕掛けは動かさなかった。家庭裁判所にいた撫子も大きな音はしなかったと証言。
 ←撫子が、大きな音が聞こえなかったのは、賀茂川だけではなく高野川でも仕掛けが使われなかったのでは主張。
 ⇒家庭裁判所と賀茂川は近いが、高野川は糺の森を挟むため音が吸収される。そもそも撫子は、落花の不利になることを口にしないはず。
▼撫子[落花]の反論
落花が人の命を奪うはずがなく、高野川の仕掛けも無効だったと主張する。ギィを鳥官として呼ぼうとするが、既に解放したと大和が告げる。
「「そんなら落ちた花」」(p.180)
姉のふりをしようとする撫子[落花]を止める大和。
15 ▼撫子による反論1 動機
論語には落花を殺す動機がないと指摘する撫子。
証拠として、論語は城坂慈恩から黄昏卿へ宛てた手紙を提出する。山風の殺害を依頼しているととれる文面だった。
命を奪わないルールがある龍樹家が慈恩を殺害しようとしたのは、個人的な復讐だったからではないか。
だが慈恩は手を下す前に死亡。サントアリオの技術で論語の身体に慈恩は脳を移植したと落花は信じたのではないか。
落花に命を狙われていたため、論語は落花を殺す必要があった。

▼撫子による反論2 なぜ仕掛けを動かなかったか
落花を殺すつもりで呼び出しながら、なぜ仕掛けを動かさなかったのかと論語を問い詰める撫子。
論語は次のように反論する。落花は、論語を殺し、かつ青蓮院からの報復を逃れるため、落花と論語の心中事件に仕立てることを考えたのだ。
「そうでしょう、撫子さん……いえ、龍樹落花さん?」(p.152)
十六時五十八分(p.181)
16 ▼撫子[落花]が黄昏卿=山風説を唱える
双龍会を終わらせようとする黄昏卿。大和が、撫子を自由の身にしたいと黄昏卿に申し出る。反省の言葉を聴いたら水に流そうと大和が促すが、撫子[落花]は拒絶する。
“けど、たった一人でも戦うって決めたからここに立ってるの”(p.182)
どちらの川も落花を殺していないという第三の立場を取ると主張する撫子[落花]。
落花は濁流に呑まれて死んだのではなく、午後四時の時点で既に死んでいたのではないか。最後に落花が会っていたのは、黄昏卿ではないかと告発する。
17 十七時十分(p.152) 十七時八分(p.185)
18 (撫子による反論2への論語の反論の続き)
鴨川デルタに現れたのは落花ではなく撫子だった。
だとすれば双龍会を行う理由はなにかと流が問うが、双龍会に挑むようけしかけたのは流だと指摘する論語。
撫子は(ここで自分が落花だと認めれば龍樹家の再興につながると心揺れるが)遺体を確認した時の記憶が抜けているが、落花は間違いなく死んだと答える。

▼撫子による反論3 ギィの証言
ギィを再び鳥官として呼び出す撫子。三時四十分過ぎ、大怨寺にガサが入ったことをギィは証言する。電気が停まったのもそのため。通話記録は突嗟に通話キーを押しただけで会話していない。四時には下鴨警察にいた。
(撫子[落花]による告発の続き)
大和が流に目撃された状況で落花を殺したように見せかけたのは、黄昏卿に代わって容疑を引き受けるためではないか。
 ←鴨川デルタにはすぐ傍に今出川通や川端通がある。どうやって人目を避けて死体を運んだのかと反論する大和。
 ⇒達也が待ったをかける。サントアリオのノックスマンから預かった書類を証拠品として提出。二十代女性Tの遺体を鴨川龍門堰へ搬送した旨の記述がされていた。
 ⇒達也が、死体は龍門堰に直接運ばれたので、鴨川デルタに流が目撃したのは落花に似せて作られた人形だろうと補足する。
 ⇒撫子[落花]に代わって龍壇に登った達也が、黄昏卿には落花を殺す動機があると主張する。ノックスマンの話によれば、先代の黄昏卿は数年前に死んだ。だがノックスマンを差し置いて他の誰かが黄昏卿となった。黄昏卿の正体は山風であり、それを知っていた落花は口封じされたのではないか。
19 ▼撫子による反論まとめと、論語の真の動機
高野川には濁流を作る仕掛けはなく、ギィたちには不可能だった。
よって落花を殺したのは賀茂川。論語は仕掛けを作動させなかったが、簡易堰は決壊している。決壊のリスクを承知しながら落花を足止めした論語には殺意があったことになる。負けを認める論語。
双龍会を閉じようとする火帝に、撫子が待ったをかける。論語が命を狙われただけで殺人に手を染めたとは思えない。別の目的があったのでは。
三年半前、論語は実の母親に襲われ、一時的に視力を失った。それはDNAを調べることを阻止するためだったのではないか。
「おそらく……論語君は慈恩さんのクローンです」(p.162)
20 十七時二十一分(p.162) 十七時十七分(p.191)
21 (撫子による論語の真の動機の推理の続き)
クローンのため、論語の寿命は短い可能性がある。慈恩のようなエゴイストになることを恐れ、その前に死を迎えることを考えていた論語は撫子と出会った。再び双龍会で対決する最高の時間をもう一度味わいたかったと認める論語。
(★小説としては、ここから臥虎の間での記述に移る)
▼黄昏卿=山風説への大和の反論
(1)慈恩が黄昏卿に宛てた手紙を証拠として提出する大和。山風の殺害を依頼するかのような内容であり、黄昏卿=山風ではない。
 ←一人二役は長い時間できないが、代役を立てて後から始末する二人一役ならどうかと主張する達也。
 ⇒家族の目は欺けないと反論する大和。撫子[落花]も同意する。
 ←では、入れ替わったのは黄昏卿のほうだ。ノックスマンが代役だった。
(2)山風は落龍疫で先の無い身体だったと指摘する黄昏卿。治療法は見つかっているが、蝕まれた身体は戻せなかった。
(3)青蓮院は山風と思しき行き倒れの遺体を回収していると黄昏卿。
22 ▼撫子[落花]が黄昏卿=慈恩説を唱える
達也に代わって龍壇に登る撫子[落花]。
論語が母親に襲われたのは、論語が慈恩の意向でこの世に生まれ落ちた、デザイナー・チャイルドだからと主張する。その論語が龍樹家を出ていったのは、今の黄昏卿を始末し、自分がその座に就くため。従って、いずれ黄昏卿は敗北する。
黄昏卿の正体は慈恩だと告発する撫子[落花]。
23 終章 十七時二十五分(p.207) 十七時二十五分(p.201)
24 黄龍側の勝利で幕とすることを告げる火帝。
論語と腐ることなく縁が切れ、再び大和の後を追うことができる臨んだ結末に至ったが、砂を噛むような思いになる撫子。
(黄昏卿=慈恩説の続き)
離れに住んだのは、心臓のペースメーカーのためではなく、自分と同じ顔に成形した替え玉を置くため。
黄昏卿が、自分は慈恩であることを認める。
(★小説としては、ここから終章に入り、蔵竜の間と臥虎の間が交互に描かれる)
25 十七時三十八分(p.216) 十七時三十分(p.208)
26 どうにか黄昏卿の逆鱗に触れずに終えられたと安堵する流と撫子。撫子は論語を追い、流は達也に携帯電話で連絡を入れる。撫子の姿をした落花に衝撃を受ける流。
雹平は、流が見た落花はウィッグから偽物だと判断した。臥虎蔵竜は、場所が見かけ通りでない事を表す故事。
落龍疫で死んだ落花の母は、サントアリオに献体された。それが龍門堰に運ばせた死体だったことを明かす撫子[落花]。
「龍樹流、落花戻し……自分を生き返したんは初めてやな」(p.210)
大和はそもそも慈恩に仇打ちするため青蓮院に入った。慈恩から落花の抹殺指令を受けた大和が、それを誤魔化し、これを機会に宿願を果たすべく落花に相談した。
慈恩[黄昏卿]が落花をサントアリオ送りにするよう命じるが、誰も動かない。大和が青蓮院を裏切っていたことを明かす。達也が雷霆の一撃を見舞う。
「双龍会は二つあったんだ」(p.212)