七河迦南『空耳の森』早引表[Excel][PDF]
SAKATAMさんのサイト「黄金の羊毛亭」のネタバレ感想を参考にさせていただきました(http://www5a.biglobe.ne.jp/~sakatam/book/r202.html#soramimi)。

 12/23(日)、MYSDOKU7に参加しました。課題本は七河迦南『空耳の森』(東京創元社)。13時半から16時半まで3時間。会場はJR蒲田駅近く、大田区消費者生活センターの第2集会室。以下、印象に残ったことをかいつまんでレポートします。走り書きのメモはとったけれど、正確さについては乞うご容赦。

 ブブブブブ(携帯電話の振動音)。
「はい、杉本です」
「どうしたんですか、もうみんな集まってますよ」
「13時半から開場で、14時スタートじゃなかったっけ?」
「13時半開始ですよ。いま、どこにいるんですか?」
「えーっとね」
 がちゃり(ドアを開ける音)。
「ここだーっ!」

 そんな遅れて駆けつけたヒーローっぽい顔で、会議室を見渡してみると見事に野郎ばかり。イブイブなのに! イブイブなのに!
 自己紹介を兼ねて、各自好きな作品を挙げることに。見事に票がばらける。ただし、最後の「発音されない文字」「空耳の森」には誰も入れず。まあ、確かに単体では推しにくい。
 司会のみっつさんから、なぜこの作品を課題本にしたのか説明。七河迦南はこれからの活躍が期待される作家として注目していた。初の短編集ということで、読む前から課題本に決定していた。短編「冷たいホットライン」はミステリ専門誌「ミステリーズ!」(東京創元社)が初出だったが、それを読んだ時点では独立した作品と思っていた。いよいよ『空耳の森』を読んで……“ヤッチャッタ!”と思った。

 まずは「冷たいホットライン」。ドンデン返しも見事だけど、ラストの“恋人気取りでいた鈍感な自分、都合のいい幻想にすがりついていたバカな自分が情けなくて、みじめで……”(p.39)という独白に人物造形の深さを感じたと秋田紀亜さん。
 『アルバトロスは羽ばたかない』の「晩秋の章」にでてきた手旗信号がここでも登場。反対側から目にしたため別の文字と解釈された、といった使い方をするのかと思ったら(この短編内では)なんの意味もなかったと肩を落とすCON$さん。

 「アイランド」は、読了後にお姉ちゃんの視点からはどうだったのだろうと考えさせられたハスミンさん。最後の男たちの会話では姉より弟のほうが早く回復するだろうと言われていたが、「空耳の森」に書かれたその後(p.296-297)では逆になっている。あの世界観に弟はどっぷり浸かっていたが、姉のほうはなにが現実かわかっていた模様。
 SFとの親和性を感じるとCON$さん。そういえばSFっぽいタイトルが多い(というか、J-POPのタイトルみたいなのも多い……)。夢野久作『瓶詰の地獄』も意識していたかもしれませんねとみーるさん。

 「It's only love」については、他の作品と比べて謎解き場面が短くスマートなのが良いとmatsuoさん。
 キラ先輩の渾名は明らかに原作:大場つぐみ、作画:小畑健のマンガ『DEATH NOTE』から。『週刊少年ジャンプ』での連載は2003年から2006年まで、実写映画が公開されたのは2006年だから、2011年の「It's only love」の記述“数年前社会現象になるほどの人気を博し映画化もされた少年マンガ”(p.77)と一致する。
 河崎明や塔ノ沢加奈子は『七つの海を照らす星』の「第五話 裏庭」にも登場している。この二人がこうなったのかと思うと、いろいろと複雑な気持ちに。リッパーさんは、キラ先輩が実は女性という叙述トリックではないかと身構えていたとのこと。

 「悲しみの子」は、光とクリスティンが同一人物だろうと予想していた人がちらほら。それでも謎が明かされると、光クリスティンの苦しみが胸に迫ったとハスミンさん。
 N県とY県とのやりとり(p.117-118)はなにかの伏線だろうとは思っていたが、県境をまたぐ家という真相を隠すためにそこまでやるかと唸ったリッパーさん。

 「さよならシンデレラ」には心を折られた純情ミステリ少年たち多数。名探偵に憧れるマサトの挫折、悲しい退場、その痛々しさに胸打たれたとみっつさん。1997年に中学三年生だったのなら、2012年現在はちょうど三十才くらい。日本のどこかでマサトは「おじさんはね、昔は名探偵だったんだよ」とかつぶやいているのかも……。
 実を言うと、あまりにも典型的なヤンキー描写にちょっと含み笑いしていた。「あたしの金だ」「だってそのお金がないと」「うるせえよ」(p.141)という場面に吹きだしたけれど、謎解きでその場面の意味が百八十度変わったことにビックリ。
 ファッションヘルス「桜の舞女学院」は、地元に「桜の郷女学園」があるからこその店名だろうね。きっと制服も似せてるんだろうね、と野郎どもだけで愉しく遠慮のない話。
 みっつさんから p.175 “ちょっと異質な妖艶さを持った少女”は誰だろうという疑問が。いや、さすがにカフェ「ヴァーミリオン・サンズ」のオーナーというのは年齢が……。

 「桜前線」で再びリコとカイエが登場、今度こそ明るい結末が待っているのかと思えばあんなことに。シリーズ作品を読んでいないmatsuoさんは、いっそリコとカイエを中心にした連作短編集にしてくれればよかったのにとのこと。
 片想いしている男性から風俗店に誘われるなど、同性愛者の片想いがリリカルに描かれているのが良かったとみーるさん。“何もしなくていいのでここで待たせてほしい”(p.191)、“サービスを求めず、おしゃべりして過ごした”(p.192)のが同性愛者であることの伏線だったのね。
 同性愛者だからこそ、リコは心を許したのかもとリッパーさん。オカマちゃんは女心がわかり気遣いができるので、モテるものらしい。ところで、イブイブに男が十人も集まって、密室でホモの話をしていても大丈夫なんでしょうか。
 みっつさんから“海にちなんだ名前のカフェ”(p.201)は「マリーナ」(『七つの海を照らす星』p.103)のことでしょうと指摘。

 「晴れたらいいな、あるいは九時だと遅すぎる(かもしれない)」で初めて作品同士のつながりが明示的に示され、胸がざわざわしたと秋山真琴さん。
 ジェノグラムについての会話はなんのためにあったのか。女の推理力を示すだけだったのか、それとも他作品とのつながりを示す手がかりがあったのか。リコは「力武○子」という名前だったのではという仮説を秋山真琴さんが唱えるも、実証できず。少なくともリコと力武尚子は「空耳の森」で個別に登場しているため、同一人物ではない模様。

 「発音されない文字」で、ようやく七海学園シリーズとつながりがあることが明らかになる。この短編集で七河迦南作品に初めて触れたmatsuoさんは「R=リコ」「K=カイエ」のことかと思ったが、他の短編と辻褄があわないため混乱したとのこと。

 「空耳の森」についてリッパーさんから、最後に一ノ瀬界がとったポーズはなにを意味していたのか、という大変においしい質問が。それでは改めてご説明しましょう! いや、私もSAKATAMさんのネタバレ感想でようやく理解したけれど。

 ……とまあ、あちこちの伏線を拾い集めて、ようやく「一ノ瀬界がとったポーズは、HRを意味する手旗信号であり、イニシャルがHのあの人がR=復活した、意識を取り戻した」という意味を理解できるわけです。
 しかも、直接的にはあの人の名前をだしていないため、この短編集で提示されている手がかりだけから推理できるという。

 全体を振り返ってみて。やはり、過去のシリーズ作品を読んでいなければわかりづらい。前半の作品はわかりやすかったけれど、後半は難しかったとskysheepさん。みんなで、「発音されない文字」は『アルバトロスは羽ばたかない』が文庫化されたときに特別収録してはどうかなどといった販売戦略を練りました。
 逆に言うと、みんなで知恵を寄せ集めて初めて理解できるような、こういうちょっとした傷がある作品のほうが読者会向けではとCON$さん。まったく関係のない話ですが、第9回ミステリーズ!短編賞を受賞された近田鳶迩先生の短編集刊行が待ち遠しいですね!
 ところで、あの人はその後、どうなったか。SAKATAMさんのネタバレ感想にある通り、時系列ではもっとも新しい「It's only love」で祝電を打った人物があの人の模様。このレジュメを作っていて、最初は気にも留めずに読み流していた「祝電の時カナさん泣いてたよね。花束とかの時平気だったのにね」(p.74)というセリフの重さに気づきました。
 とっかえひっかえ毎日のように本を読むことで、感受性が薄れてきているように感じることがあります。作品の創り手は、それを享受する側には想像もつかないほどの想いを込めています。けれど、それに気づく機会には必ずしも恵まれません。改めて「一行の重さ」を考えさせられました。

 ほ、ほら!ATNDのページだと「13:30受付開始 14:00-16:30」になってるじゃん!