※竹本健治『匣の中の失楽』(双葉文庫、2002年10月20日 第1刷発行)に基づき作成した。

No. 節# p. 概要 内容
1 序章に代わる四つの光景 1 霧の迷宮 9 二ヶ月も姿を見せない曳間。
影山も姿をみかけない。
影山から布瀬に「影擬きにす」の暗合と鬼の図が送られた。
霧の中を行く曵間了。不連続線。
2 2 黄昏れる街の底で 13 喫茶店で影山を待つ、根戸真理夫と真沼寛。「君はどこにいるの」「どこにもいないわ」「じゃ、行こうか」頭のなかで考えていることが盗まれていく真沼。影山は現れない。
3 3 三劫 18 目碁を打つ倉野貴訓と久藤雛子。それを見物する甲斐良惟。二ヶ月も行方不明の曵間のこと。倉野によると五月にナイルズの古本屋巡りにつきあわされたとき神保町でみかけたのが最後。ナイルズのお目当ては花言葉の本だった。三劫。
4 4 いかにして密室はつくられたか 27 羽仁和久、布瀬呈二、ナイルズ、ホランドが集まる。ナイルズが偵小説の創作を宣言。《さかさまの密室》にする予定。先月のなか頃、布瀬に届いた影山からの手紙。「影擬きにす」の暗合と鬼の図。
5 一章 1 第一の屍体 40 七月十四日。倉野がアパートで曳間の屍体をみつける。
七月十六日。倉野が羽仁、根戸に屍体をみつけた経緯を話す。
七月十四日。猛暑。新宿から目白のアパートに帰る倉野。バスケット・シューズとデザート・ブーツ。曳間の屍体を発見。消えたデザート・ブーツ。午後三時十五分。
6 2 密室ならぬ密室 47 現場に残り探偵になろうとする倉野。曳間のしあわせそうな死顔。『数字の謎』と題する本。疑問点の整理。警察が到着。
7 3 靴と悪戯 56 七月十六日、羽仁の家〈白い部屋〉。羽仁に事件のことを話す倉野。靴のことは黙っておくことにした。曳間の死亡時刻である十二時頃、倉野は喫茶店『アルファ』で久藤杏子と会っていた。探偵小説狂であることを根戸は証言したという。
8 4 理想的な殺人 67 七月十七日。喫茶店〈黄色い部屋〉で各人がアリバイを証言する。
二週間後の七月三十一日に推理較べすることを決める。
七月十七日、喫茶店〈黄色い部屋〉。フランス人形をみつめる倉野。ビスク・ドール。羽仁、布瀬、ナイルズ、ホランド、根戸、真沼、雛子がやってくる。『数字の謎』は『5の頁』が開かれていたという。
9 5 白昼夢の目撃者 77 布瀬の証言。ハメ手を研究してきたが、倉野は不在。十一時十分。喫茶店『ルーデンス』でマスターと碁を打つ。十二時半、向かいの歩道にナイルズあるいはホランドをみかける。ナイルズもホランドも、倉野を訪れたことを否定。
10 6 通り過ぎる影 85 ホランドの証言。十二時三分前、公園の時計台。昨日届いた、差出人不明の手紙に誘いだされた。誰が風を見たでしょう。十二時半まで待ち、根戸のマンションへ。『加持祈祷秘法』。中手の数式。走人足留法。急急如律令。鬼と四波羅密。杏子と甲斐、根戸の関係。
ナイルズの証言。『いかにして密室はつくられたか』を書きだす。三時十分前、甲斐から電話。いいものを見せてやる。三時二十分、アパートに到着。真沼と羽仁は本屋へ。甲斐が『花言葉全集』を差しだす。小学校から失敬してきた木椅子。三時四十分過ぎ、真沼だけ戻る。既視感(デジャ・ヴュ)現象。
布瀬によると、影山は多忙とのこと。影山に会ったことがあるのはナイルズ、ホランド、真沼、布瀬、甲斐、曳間。真沼が推理合戦を嫌い、帰る。十二時から二十二時半まで甲斐と一緒だった。
11 7 非能率なアリバイ 107 根戸の証言。十二時六分前、夢から覚める。杏子から電話。三時に本郷の喫茶店で会う約束をする。
羽仁の証言。十一時から一時半まで中野のY*大のチェス研のサークルに行っていた。それから甲斐のアパートへ。花言葉を利用した暗号小説もできるんじゃないか。レコード店で病気がでて、家に帰った。
雛子の証言。あの日、曳間に遇った。
12 8 鍵と風鈴 116 雛子の証言。朝九時、杏子に頼まれ、高田馬場の『古成堂』へ風鈴を受けとりに。山手線で曳間をみかける。不連続線を捜していた。「うん、見つかったのか、見つからなかったのか、それはもうすぐ判ることなんだ」曳間はバスケット・シューズを履いていた。別れたのは十時前後。十一時ちょっと前に帰宅。
デザート・ブーツはナイルズ、ホランド、真沼、甲斐が持っている。影山は不明。風鈴の暗号。真言密教の呪文。
13 9 殺人者への荊冠 127 推理比べの予定を立てる。二週間後の七月三十一日に。十戒を決める。ホランドが、犯行は連続殺人でなければならぬと宣言する。
14 10 さかさまの殺人 137 倉野と会話するナイルズ。無意味なトリック、無目的なトリック。なぜホランドは悉くの証拠がたったひとりの人物を名指すなどと言ったのか。死んだ曳間さんに推理して貰えばいい。《さかさまの密室》。
15 二章 1 死者の講義 148 七月二十四日、真沼が布瀬家の書斎から忽然と消失する。鏡に血飛沫があった。
根戸が、布瀬あるいは雛子のどちらかが嘘をついており、事件は狂言と結論する。
七月二十四日、片城家。曳間がナイルズの小説を読み終える。鬼の字と概念について。甲斐から電話。真沼が殺されたという。
16 2 ブラック・ホールのなかで 160 事件の説明。布瀬邸〈黒い部屋〉に午後一時、真沼が訪れ書斎でホフマンの本を探し始める。倉野、雛子、杏子が来る。四時前に影山が来て、数表の魅力を訴える。羽虫の大群が飛び交うような異音。布瀬が合鍵をとってくる。消えた真沼、鏡に血飛沫。
17 3 第四の扉 173 影山が事件をブラック・ホールに見立てる。トンネル効果。雛子が事件の時間関係を表にする。ホランドが布瀬から鍵を受けとると、書斎から消失する。
18 4 羽虫の正体 184 ナイルズとホランドが密室からの消失トリックを種明かしする。異音の正体を検討。
19 5 二者択一の問題 194 密室からの脱出方法を検討。根戸が、最初から真沼は部屋にいなかったと推理。布瀬は真沼のシャツの色が青っぽかったと言い、雛子は赤かったと証言。羽仁の病気がでる。光の干渉性実験。
20 6 プルキニエ現象 207 七月二十八日。血飛沫が人間の血とわかり、真沼は殺された疑いが深まる。
羽仁が虱潰しの推理法で検証する。雛子の両親が旅先で死亡した報せが入る。
七月二十八日。根戸のマンションに甲斐、布瀬、倉野、羽仁、雛子が集まる。鏡の血はAB型だった。前提要求の問題。羽仁が虱潰し法での推理を披露する。プルキニエ現象。暗さに慣れていた目には赤い色が焼きついたのではないか。
21 7 仲のよくない共犯者 217 虱潰し法での推理の続き。屍体を一寸刻みに切断した可能性。百科事典を刳り抜いて、そこに隠していたのではないか。根戸が倉野、曳間とのチェス遍歴を回想する。
22 8 見えない棺桶 226 虱潰し法での推理の続き。布瀬が羽仁の推理を否定する。事件の夜、プルキニエ現象について調べるため百科事典を引いたが、人が隠れる場所など無かった。
23 9 犯罪の構造式 236 甲斐が動機について推理する。倉野が目覚め「エクゴニン!」と叫ぶ。構造式とファミリーの関係とのつながり。雛子が布瀬との思い出を回想する。
24 10 牙を剥く悪意 246 倉野は、真沼が殺されるとしたらその美貌が関係するはずと指摘する。血液型は倉野がO型、羽仁と根戸がB型、布瀬がAB型、甲斐がO型、雛子がAB型、曳間がA型、杏子がO型、ナイルズとホランドがA型、影山がB型。
布瀬が甲斐を怒らせ、甲斐が部屋を出て行く。ナイルズの小説内と、なぜ甲斐の描写は人格が異なるのか。甲斐は万引きの常習犯。杏子が迎えに来る。雛子の両親が旅行中に死亡したという。
25 三章 1 扉の影の魔 258 七月三十日。ナイルズと小説の目論みについて会話する倉野。 七月三十日。電車内で会話する倉野とナイルズ。雛子の両親の死と、ナイルズの小説との一致に驚く。悲報が届いたのは二十八日の午後。目白駅で降りて倉野のアパートへ。「そうか、あれは動機づくりのために書かれたのか」ワトソン捜し。合わせ鏡の不思議さ。アパートの戸を開けた瞬間、倉野が“何か”を見たのか呆然とし動かなくなる。
26 2 推理競技の夕べ 272 七月三十一日。曳間の死について〈黄色い部屋〉で推理較べをする。
曳間に精神病院に入院している姉がいることや、ナイルズとホランドに兄がいたこと、影山が送った「影擬きにす」の暗合の解き方が明らかになる。
突然の停電があり、ホランドの屍体がみつかる。
七月三十一日。〈黄色い部屋〉に集まったナイルズ、ホランド、倉野、布瀬、甲斐、根戸。甲斐が描かれ方に不満を漏らす。ナイルズが二章まで書き上げたのは二十六日の夜。倉野はそれを二十七日に読んだ。
27 3 愚者の指摘 281 午後五時、推理較べを始める。タロット・カードで順番を決める。
甲斐の推理。デザート・ブーツを七夕の日に甲斐は盗まれた。
28 4 歩き出す仮説 289 甲斐の推理の続き。倉野が偽証したと指摘する。十四日の一週間前、『序章に代わる四つの光景』の三番目と四番目の挿話の恰度まんなかの日にデザート・ブーツを盗まれた。倉野が覚えた違和感とは、盗んだ靴がそこにあったからではないか。犯人として布瀬を指摘する。だが倉野がそれを否定。マスター以外の第三者も布瀬のアリバイを証言した。靴も盗んでいないという。
29 5 扉の向こうには 298 倉野の推理。曳間の失踪理由を調べた。『記憶におけるくりこみ原則』。富山のB*病院に曳間の姉、理代子が入院していた。杏子にそっくり。
30 6 カタストロフィーの罠 308 倉野の推理の続き。尖ったものの上にビー玉やピンポン球を乗せようとする。甲斐は曳間の姉に恋していたのではないか。倉野が『カタストロフィー理論』で動機を説明する。
31 7 殺人狂想曲 322 甲斐が爆笑する。倉野は甲斐のアリバイを崩す推理を準備していない、デザート・ブーツすら無かったかもしれないと言う。
ホランドが推理を披露することを棄権する。「……どういうつもり」ナイルズに連れられ出て行く。
32 8 もうひとつの空席 331 布瀬の推理。エクゴニンの構造式とファミリーの関係からすると、ナイルズとホランドのところにXがいるはず。三つ子説。戸籍謄本には森という長男の記録があった。戻ってきたナイルズは、森は産まれてすぐ死んだと言う。
33 9 五黄殺殺人事件 348 根戸の推理。序章に登場する人物の数は一、二、三、四。『数字の謎』で開かれていたのは5の頁。九星術における五の重要さ。五黄殺。
「影擬きにす」の暗号を解く。ワトソン捜し=騙されているのは誰かを問う小説。騙す者はナイルズ、ホランド、布瀬、真沼、甲斐、倉野。黙される者は根戸、羽仁、雛子、杏子。影山は存在しないのではないか。しかし影山が登場する。
34 10 正反対の密室 368 ホランドの様子をみようとしたところで突然の停電。根戸が奥の倉庫へと連れこまれる。扉を破ると、ホランドの屍体がみつかる。
35 四章 1 現実と架空の間 380 八月十六日、第三章が朗読される。 八月十六日、新宿御苑の芝生。ナイルズ、ホランド、羽仁、根戸、布瀬、曳間、影山。第三章を羽仁が朗読する。瞞し絵(トランプ・ルイユ)のように現実と虚構の区別がつかない小説。
36 2 觔斗雲に乗って 389 八月十九日、甲斐のアパートを訪れた曳間が、ナイルズの小説の目論みについて推理を述べる。
同日、杏子が正体不明の誰かに電話で誘いだされる。
八月十九日、アトリエで屍体となった杏子を描く甲斐。曳間が訪れる。雛子の風鈴をとりだす。甲斐が描いている絵を当ててみせる曳間。犯人捜しと違って、誰が騙されているかを主題とした探偵小説ではないかと曳間が仮説を述べる。
37 3 おもちゃ箱の坂で 400 八月十九日、杏子がナイルズとの情事を回想する。十一時に中目黒駅へ来いとの怪電話。十一時二十六分まで待つが誰も来ない。伝言板に地図と「この道をどこまでも歩き続けよ」の一文をみつけ、杏子は歩きだす。
38 4 予定された不在 410 八月二十一日、曳間のアパートに影山、羽仁、根戸、布瀬、ホランド、雛子、曳間、ナイルズが泊まりこむ。
同日深夜、甲斐のアパートに倉野が訪れる。怪電話に甲斐が呼びだされた間に、倉野が殺害される。アトリエが密室になっていた。
八月二十一日、曳間のアパート。チェスをする根戸と羽仁。影山が窓を閉める。曳間と論文について会話。『記憶における超多時間原則』で触れていた記憶錯誤(パラムネジー)を掘り下げたのが『記憶におけるくりこみ原則』。
布瀬、ナイルズ、ホランドがやってくる。雛子たちが引っ越すかもしれないという。雛子が紙包みを抱えて来訪。二、三日前から杏子は青森の親戚のもとへ引っ越すことを賛成し始めたらしい。
真沼の消失について、曳間が新たな解答をだす。布瀬以外の全員が共犯説。しかし鍵を抽斗にいつ戻したのか。抽斗をあけしめすればガタガタ音がしたはず。
39 5 屍体のある殺人 424 目が覚めた影山。羽仁、根戸、布瀬、ホランドが雑魚寝。隣の部屋には雛子、曳間、ナイルズ。根戸が柱時計の針を読み「四時十分だよ」と答える。鏡に映る時計の揺れる振り子と文字盤を影山も確かめる。
曳間が電話で報せを受ける。倉野が殺されたという。八角時計が二時二十分を指して止まっていた。
40 6 死の手触り 434 甲斐の証言。ワインを飲みつつ、曳間の推理について会話。甲斐が開かずのアトリエを披露する。倉野が眠る。甲斐に電話、スナック『ギョーム』に来いという。十二時半、スナックに到着。「まるぼうろ?」五時半過ぎ、アパートに帰った甲斐が倉野の屍体を発見する。
41 7 不必要な密室 444 倉野は頸動脈をペインティング・ナイフで斬られていた。アトリエには鍵がかかっていた。鍵はアトリエ内でみつかった。油絵の筆がことごとくへし折られ、毛を引き抜かれてばら撒かれていた。推定死亡時刻は二時から五時。杏子は叔父と四時半過ぎまで話をしていた。三日前、杏子も怪電話を受けたという。
影山が八角時計のことを説明する。時計の螺子を巻いたのはナイルズ。
42 8 用意されていた方法 455 八月の終わり、杏子と雛子が東京を離れる。
九月二日、倉野の死について推理し合う。
杏子と雛子が八月の終わりに東京を離れる。
九月二日。〈黄色い部屋〉にナイルズと羽仁。羽仁が、時計の長針と短針をあべこべに読んだのではと推理。根戸が到着。甲斐を除く全員が集まる。
倉野の密室を作成した理由を曳間が四つ挙げる。即興で合鍵を作ったのではないか。羽仁が《ウースティーティー》の代わりとして油絵の筆を利用した推理を披露する。
43 9 闇の傀儡師 469 九月三日、甲斐が交通事故で死亡する。
九月七日、影山がミラー・ハウスから消え失せる。
九月二日の集会で姿を見せなかった甲斐が、九月三日に交通事故で死亡する。
九月七日。ホランドと影山が逢う。ジェット・コースターに恐怖する影山。なぜ風鈴が鳴っていたのか。「『誰が風を見たでしょう』――だね」ピエロによってミラー・ハウスに押しこめられる二人。影山の姿が消える。
九月九日。羽仁の〈白い部屋〉にホランド、ナイルズ、根戸、羽仁、布瀬が集まる。曳間が姿を見せない。根戸の笑い顔が歪む。
44 10 架空に至る終結 480 九月十三日、根戸が、殺された真沼のため曳間が復讐しようとしていると推理を唱える。
曳間は、ナイルズを倉野殺しの犯人として指摘する。
九月十三日。曳間のアパートへ向かうナイルズ、ホランド、羽仁、根戸。
根戸の推理。なぜ曳間は、雛子が騙される側だった可能性を推理しなかったのか。曳間は、真沼の復讐のため、あえてその推理を公言しなかったのではないか。四人が曳間の部屋に到着すると、布瀬がなぜか怯えたような表情をしていた。
曳間の推理。自己催眠で、八角時計は四時十分で止まっていたことを思いだしたという。扇風機で風鈴が鳴り、鏡を揺らし、振り子が揺れているようにみせたのではないか。ナイルズを犯人として指摘する。羽仁の病気。
45 五章 1 降三世の秘法 498 八月二十五日、羽仁邸〈白い部屋〉での集まりで、倉野が殺害される。
八月二十六日、部屋の鍵は倉野が呑みこんでおり、密室だったことがわかる。
八月二十五日、〈白い部屋〉。甲斐によれば開かずのアトリエは見せかけの扉があるだけだという。無邪気さを失ったナイルズ。風鈴の呪文について根戸が説明する。姦通を白状させる秘法。
46 2 闇のなかの対話 510 ダーツをする根戸と、羽仁との会話。ナイルズは、実はホランドではないのか。“架空の部分での犯人が即ち現実の犯人である”曳間殺害時のアリバイを再検討すると、ホランドのアリバイがもっとも不確か。七月十七日、倉野の主観を借りた描写ではデザート・ブーツに染みのようなものがついていた。それはコール・タールだったのではないか。ホランドの靴の裏にも染みがついていた。
47 3 大き過ぎた死角 522 七時の鐘。訪れた雛子を布瀬が迎える。アイス・コーヒーとミックス・ジュース。
雛子の推理。写真を鍵穴の向こうに貼りつけたのではないか。しかし布瀬は、そのような装置をとりはずすことはできなかったと否定する。
48 4 ユダの罪業 535 布瀬の推理。森の入れ替わり説。
恐ろしい叫び声。七時四十分、小刀を突き刺された倉野を発見する。ナイルズを布瀬が詰問するが、甲斐が一緒にいたとかばう。
49 5 逆転された密室 548 八月二十六日、〈黄色い部屋〉。布瀬、甲斐、根戸。根戸がケプラーの疑問を話す。網膜に映る像は上下左右が逆のはずなのに、なぜそう知覚しないのか。いつの間にか来ていた影山が、エーテルの存在と同じく否定も検証もできないと指摘する。森は生後一週間で死亡したことがわかる。羽仁が部屋に飛びこんでくる。部屋の鍵は、倉野が呑みこんでいた。
50 6 ラプラスの悪魔 560 甲斐が失踪する。
八月の終わり、杏子と雛子が東京を離れる。
影山が失踪する。
八月二十八日。杏子と根戸。「そう言えば君も、赤ん坊の時、貧血に罹ったって言ってなかったっけ」「わたしじゃないわ。姉さんよ」「姉さんは、父と母の血を輸血して助かったのよ」甲斐が部屋を空けたままにしているらしい。杏子は三日後に東京を離れるという。根戸がラプラスの悪魔について説明する。
51 7 撫でてゆくのは風 571 九月一日。根戸のマンションに集まった羽仁、布瀬、ナイルズ、影山。甲斐は姿を消したまま。根戸が「影擬きにす」の暗号の続きを解く。九星術の方位盤は、鬼の字とファミリーの名前との関係、住居の方角を暗示していた。曳間は倉野と間違って殺されたのではないか。「あれは、小生の悪戯だったんですが――」失踪する影山。
52 8 遡行する謎解き 583 十月五日、ナイルズが推理を打ち明ける。 十月五日。改装し店名も『帰路』に変わった〈黄色い部屋〉の二階。曳間の手帳を根戸が見せる。ナイルズが、倉野殺しのとき実際にはアリバイが無かったと告白する。犯人は甲斐だった。雛子からの手紙を見せる。最初から鍵はかかっていなかった。
53 9 キングの不在 596 ナイルズの推理。甲斐は復讐のため倉野を殺害した。ホランドを殺したのは倉野で、死角はシャンデリアにあった。
54 10 匣のなかの失楽 605 ナイルズの推理の続き。曳間を殺したのは倉野ではない。七月三十日にアパートの戸口で倉野が驚愕していたのは、捩込み錠が本当はかかっていなかったこと。曳間は自殺だった。デザート・ブーツの主はホランド。
ナイルズは、甲斐に倉野を殺すよう小説の第四章でしむけた。“――俺達は密室のなかを生きてきたんだ。” 金沢の海で自殺した、甲斐の屍体が発見されたという。
55 終章に代わる四つの光景 1 九星と血液 619 根戸が、すべての真犯人は曳間だったのではと推理する。
霧の中に消えるナイルズ。
列車で会話する羽仁、布瀬、根戸、ナイルズ。九星術と、ファミリーそれぞれの住所の町名との色彩のつながりを布瀬が説明する。根戸が、輸血と血液型について気づいたことを語る。杏子は両親の本当の子供ではなかったのではないか。
56 2 青い炎 627 羽仁、布瀬、ナイルズ。死の座脚に、真沼の作品と思われる詩が掲載されていた。
57 3 解決のない解決 632 根戸、羽仁。根戸が、すべての真犯人は曳間だったのではと推理する。
58 4 不連続の闇 637 霧の中に消えるナイルズ。