本来、このような整理は中立的な第三者が行わなければならない。そしてその意味では、私にこの整理をする資格は無い。
 私(小田牧央)は2010年、探偵小説研究会に入会した。論争が起きていた当時、論者の法月、笠井は探偵小説研究会に所属していた。従って、私は中立的な第三者とは呼べない。紹介にあたっては公平性を保つよう努めたが、無意識のうちにバイアスがかかっている可能性までは否定できない。疑問を覚えた方はぜひ、元のテキストにあたっていただきたい。

 けして開き直ったわけではないが、議論の流れを追跡すると同時にときおり私からオーディオコメンタリーよろしく補足や推測、更には論者への反論さえ挟んでいる。これにはついては註記や別章をたてるなどして記述をわけるべきかとも思われたが、読者の理性と判断力を信頼し現状の形式とした。

 引用は以下を底本とした。
 このような整理は当然、初出のテキストにもあたるのが誠実な態度ではある。しかし改稿により論者たちの主張がより整理されている可能性を鑑み(……なにより怠惰な私が探偵小説の神に捧げる無私の精神にも肉体的・精神的限界があり……)最新のテキストをベースとした。

「初期クイーン論」 法月綸太郎『法月綸太郎ミステリー塾 海外編 複雑な殺人芸術』所収 二〇〇七年一月二十二日 第一刷発行 講談社
『エラリー・クイーン論』 飯城勇三 論創社 二〇一〇年九月三十日 初版第一刷発行
『探偵小説と二〇世紀精神――ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?』 笠井潔 東京創元社 2005年11月25日 初版

 それぞれの論者は主張のなかで『ギリシア棺の謎』以外のクイーン作品にも触れている。本稿は門戸を広げるため『ギリシア棺の謎』に紹介を限定し、他作品の内容には触れない。
 各論者の主張を丹念に追い、重点を引用して雰囲気をつかめるよう努めたが、私の判断で些末と感じ省略した箇所も少なからずある。あくまでも、膨大なテキストの海のひとしずくを掬いとったに過ぎないことをあらかじめご了承頂きたい。