「けいおん!!」の最終回を観て、つらつら思ったことをまとめてみます。
 なお本文を書くにあたって、毎週楽しみにしていた、たまごまごごはんさんの感想が大きな助けとなりました。ありがとうございました。

「けいおん!」&「けいおん!!」関連感想まとめ - たまごまごごはん
http://d.hatena.ne.jp/makaronisan/20000102/1282378145

 驚いたのは「卒業しないでください」と告白した梓への、唯の態度でした。てっきり、いつものように梓に抱きついたり、おろおろすると思っていたのですが、落ち着いて「これをあげよう」と写真や桜の花を渡し、卒業しても軽音部の五人は一緒だと慰めたのです。
 朝からギー太を触っていて遅刻しそうになったこと、梓のために曲を準備していたことから、写真や桜の花もあらかじめ後輩へのメッセージとして準備していたことがうかがわれます。隣の家のおばあちゃんのために演芸大会にでたり(第9話)、家事は妹の憂に頼り切りだったのが自分でアイロン掛けしたり(第23話)、いつのまにか唯はしっかりと先輩として成長していたからこそ、梓の涙にうろたえなかったのでしょう。
 いつものマイペースでゆるふわな性格からすると、唯は動揺するだろう、と私は思いました。しかし、唯の成長ぶりに気づいていなかった浅はかな予想は、良い意味で裏切られました。

 ここでフト思いだすのが、和です。幼稚園の頃から、頼りない唯の面倒を見てきた、まるで保護者のような友だちです。その和が、思いがけない一面を見せたことがありました。
 ケーキの一口交換を提案された和が、よりによって唯のショートケーキから苺を食べてしまいました(第14話)。唯は怒りましたが、和のほうは自分のなにが悪かったのか理解できてないようでした。常識を説くほうと説かれるほうの立場がいつもと逆転してしまったわけです。
 ちなみに、この放送の後でわたしはこんな文章をTwitterでつぶやきました(読みやすいよう整形+恥ずかしい誤植を修正)。

「ねえ、お姉ちゃん」
「な~に~、憂?」
「今日、お姉ちゃんのクラスでもアンケートあった?」
「アンケート?」
「一年生と二年生だけだったのかな。学校への要望をまとめるっていう」
「えへん! 三年生は受験で忙しいのさ~」
「ひとつだけ変な質問があったの」
「変な質問?」
「ショートケーキの苺を横取りしちゃうのはひどいかっていう。生徒会の人、どうしてそんな質問いれたのかなぁ?」
「さ、さぁ~」
「そんなのひどいに決まってるよね! 絶対ゆるせないってみんな言ってたよ!」
「う、憂、お姉ちゃん、ちょっと電話しないといけないからっ!」

 生徒会では、一年前の生徒会長にして澪ファンクラブを設立した先輩と親しかったようですが、他の生徒会役員と和気藹々していたようなシーンは思いあたりません。リーダーとして人を動かすことに長けているからこそ、逆に対等の友人関係は築きにくく、そのためにショートケーキの苺は特別だという常識(?)も知らなかったのでは、と深読みしたくなります。
 仮にそうだとして、和は孤独な学生生活を送ったかといえば、それは明らかに違うでしょう。軽音部との関わりだけではなく、卒業式前日のエピソードで、生徒会長として撮影された写真に思わず見せた照れ笑いや、生徒会室でひとり感慨深げにしていたときの表情からして、彼女には彼女の青春があったはずです(第23話)。
 卒業式の後、唯は和に「今日帰れたら一緒に帰ろう」と呼びかけます。これは、唯の意識としては、和には生徒会関係の仕事や挨拶があるだろうけれど、帰る時間を合わせられるなら一緒に帰ろう、と言っているのでしょう。同時に、和が卒業式の日でも一人で家に帰ること、一緒に帰るほどの親友が唯以外にはいなかったことを示しているようにも深読みできます。
 あえて妄想めいた解釈を続けるなら、唯が和の親友でいられたのは、唯が誰かに世話を焼いてもらわないといけないダメな子だから。対等ではなく垂直の関係を築けたからこそかもしれません。
 だからといって、和が唯に偉ぶったり、唯が卑屈になったりしていた場面は描かれていません。もしそんなことがあったなら「今日帰れたら一緒に帰ろう」などと声をかけることはなかったでしょう。和は和のまま、唯は唯のまま。二人は二人、ありのままで親友だったのです。

 話は変わって、今度は唯の妹、憂について考えてみます。憂は姉のために料理を作り家事をこなし、なにくれとなく面倒を看ます。受験のときはお百度参りで合格を祈願するなど(第22話)、姉への溺愛ぶりは驚くばかりです。
 髪型を似せるとそっくりという特徴があり、修学旅行では唯たちが迷子になったことから、私はこんなことをつぶやきました(読みやすいよう整形+推敲)。

 亀のエサが無くなったため平沢家を訪れた梓。だが暗いリビングで横たわっていたのは、修学旅行で京都にいるはずの唯だった。
「ごろり~ん、ごろごろり~ん」
「せ、先輩?」
 唯に似た少女は梓に気づくこともなく立ち上がると、起き上がり髪を結った。さっきまで横たわっていた空間につぶやく。
「ごめんね、お姉ちゃん、すぐご飯にするから」
 後ずさった梓は、扉にぶつかり物音を立ててしまった。ゆっくり振り返る憂。
 沈黙を破るかのように、電話の呼出音が鳴り響いた。
「あ、お姉ちゃん……え、迷子なの? じゃあそこで待っててね」

 夏休み、梓は図書館帰りの唯たちとバッタリ顔を会わせます(第13話)。唯は大喜びで梓に抱きつきます。このとき、梓と一緒にいた憂が驚いた表情を見せます。私は思わず、憂が梓に嫉妬したのではと妄想しました。
 けれど、その妄想は第21話で完膚無きに打ち砕かれました。学園祭が終わってボンヤリしてしまった梓に、髪型を変えて唯そっくりになった憂が抱きつきます。「梓ちゃんに抱きつくの一度やってみたかったんだ」と言いながら。
 憂は確かに姉を溺愛しています。しかし、友人である梓も大事であり、当然ですが嫉妬など抱くわけがなかったのです。見た目からして憂は内気で引っ込み思案そうな印象があり、だから姉の格好をすることで初めて親愛表現をすることができたんだなと、そのときは思いました。
 このシーンについての解釈が少し変わったのは、最終回です。憂が梓に「いつもいつもお姉ちゃんはちょっとだけあたしの少し先を行っちゃう。お姉ちゃんだからしかたないけど」と打ち明けます。いつも幸せそうに一緒の時間を過ごしてきた憂なのに、姉との距離を感じている。そのことが意外でした。
 あくまでもひとつの解釈に過ぎませんが、憂はただ姉を愛していただけではなく、憧れていたのかもしれません。梓に率直な愛情表現ができる姉、自分には真似できない行動がとれる姉を尊敬していたのです。だから、憂が梓に抱きつくには、姉への変装が必要だった。憂が梓に抱きついたのは友人への愛情表現であると同時に、姉への憧れの吐露でもあったのではないか――そんな風に解釈が変わりました。

 いちばん初めに、私は唯が卒業式で梓の涙に動揺しなかったことに驚いたと書きました。そして、それは唯が精神的に成長したからだろうと書きました。
 けれど、他にも原因があったのではないか、と思うのです。唯には、もともとあの場面で毅然と振る舞えるだけの素養があった。唯の性格だからこそ、あの場面で動揺せずに梓を慰められたのではないか。
 唯はあらゆる人と親しくなれます。軽音部メンバーに限らず教室では多くのクラスメイトと会話を交わし、人気がある様子がうかがえます。それは唯が優れているからではなく、端的に言って「アホな子」だからです。そして同時に、そのことをなんら卑屈に思わない。小学校時代、家庭科の授業や作文の発表で失敗した唯は、普通なら落ち込みそうなことなのに、友人たちと一緒にそれを笑います(第8話)。
 意地の悪い言い方をすれば、唯は人間関係に於いて“下”にいるのではないかと疑ってしまいます。しかし、唯は決して落ちこぼれることなく、みんなの助けを借りながらもマイペースで成長を続けます。
 唯のこの性格を、短く表現できる言葉がみつかりません。強いていうなら「孤独に強い」ということでしょうか。と言っても、孤島で一人暮らしができるという意味ではありません。
 孤独に弱い人間は集団のなかで誰かにすがろうと必死になり、そして仲良くなった相手にべったりと依存してしまいます。しかし、平沢唯はそのような性格とは正反対です。彼女はどんなにダメダメのアホアホでも、集団のなかで孤立せずに愛されます。その一方で、誰と仲を深めようが、自分のペースをまったく乱さないのです。
 表面的には、唯は和に、憂に、梓に、べったりと甘えているように見えます。それは事実、そうなのでしょう。けれど唯の周囲には、少しだけ距離があります。たがいに依存しすぎてダメになってしまうことのない距離が空いているのです。和にとって唯は世話を焼いてあげなくてはならないダメな子であると同時に、一緒に帰ろうと声をかけてくれる親友です。憂にとって唯は溺愛の対象であると同時に、友だちとの付き合い方を示してくれる憧れの人です。梓にとって唯はたよりなくて甘えん坊のどうしようもない人で、同時にかけがえのない先輩だったのです。

 さて、最後に。
 これまでの私の「けいおん!!」関連のつぶやきで最高傑作と自負している作品を、本文とまったく関係ないのにむりやり引用して締めとします(読みやすいよう整形しました)。

「おおロミオ、あなたはなぜロミオなの」
「ジュリエット、君に打ち明けなければならない秘密がある」
「秘密?」
「我がモンタギュー家は長く跡継ぎに恵まれなかった。母が一児をもうけたとき、父は世を欺く決意をした」
「まさか!」
「ボクは女なんだ……ってムギ! なんだこの脚本はー!」