MYSDOKU1行ってきました。課題本は米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件』、参加人数はスタッフ含めて二十二名。
以下、印象に残ったところを軽くレポします。記憶だけを頼りに書くので正確さや順序の点はご容赦を。
会場は喫茶店ルノアールに併設の会議スペース。受付で参加費千円を支払い胸にハンドルネームを書いた名札を留める。学校の教室の半分くらいの大きさで、二十人超だとけっこういっぱいいっぱいな感じ。女性が四分の一くらい? 例によって例のごとくMYSCON臭が……あ、いや、そもそもMYSCONの企画だったな、これ。
スタッフのみっつさんに声をかけられる。「レジュメ作ってきました?」「あ、はい」「じゃあ、段取りを決めましょう」「えええええっ!」
いや、蔓葉さんの読書会@MYSCONだと、私のレジュメって「進行役の好きにさせないぜ! 俺が横やり入れてやるっ!」くらいの勢いなので(スミマセンスミマセン)。
で、ホントに打合せ実施。みっつさん、秋田紀亜さんと三つもレジュメがある。見事に紀亜さんと内容がもろかぶり。ああ、やっぱ春夏も含めて作品内に登場したスイーツのリストを作って〈小佐内スイーツコレクション〉とか題せばよかった。
いよいよ読書会スタート。まずは自己紹介から。プラス、みっつさんの要望で小佐内さんと小鳩くんのどちらか好きかカミングアウトすることに。小佐内さんに復讐されたい人もいれば小佐内さんみたいに復讐したことがあるので気持ちがわかるという人も(場内騒然)。小佐内さん小鳩くん以外では、あまりに不憫な瓜野くん、ファミレスのずぼらな店員さん、堂島健吾の名前もあがった。
自己紹介の後で飲み物とレジュメの配布。若い執事に指を鳴らして紅茶を運ばせる主人。紀亜さんがレジュメの説明で、ホワイトボードに図を描いてミステリのプロットとストーリーの関係について語りだす。
みっつさんの振りで、まずはミステリ面での良さから。近田鳶迩さんが水を得た魚のように語りだす。どちらかというとサスペンスだよね。あまり謎解きはない。氷谷くんの行動には伏線がある。例えば葉前の放火事件現場で、道路標識に傷があるのを瓜野くんに示したり(上巻p.111)。
視点の問題。春夏では小鳩くんが語り手だったけれど、コンビ解消によって瓜野くん(語り手)-小佐内さん、小鳩くん(語り手)-仲丸さんという構成になった。いっそ小佐内さんが語り手というのもありそうなものなのに。
やはり春夏で小佐内さんのキャラクタが明らかになっているので、読者にしてみれば「きっと小佐内さんがまたなにか復讐をたくらんでいるに違いない!」と疑ってかかる。わたしゃパノラマ・アイランド行きのバスに乗っていた女子学生って小佐内さんの変装じゃないかとビクビクしてたよ。
それが実際には、前半まで小佐内さんは本気で瓜野くんの恋人たろうと努力していた。復讐が始まったのは前半の終わり、断りもなくキスをされかけたときだった。
ここで紀亜さんが最初にした、ミステリのプロットとストーリーの関係が浮上してきた。一般的にミステリは、まず死体がみつかって、探偵役が捜査し、謎を解いて犯人をみつけるというプロットを踏む。けれどその裏には、小説内の時間が始まる以前から犯人と被害者との間に確執の物語がある。犯人が被害者に恨みを抱き、殺害したというストーリーがある。
ところが秋期限定は、犯人役(小佐内さん)が動機を抱き犯行(瓜野くんへの復讐)を決意する瞬間がプロットの真ん中に来ている。また復讐するんだろうと予想する読者は、放火事件に初めから小佐内さんが関わっていると思い込む。その思い込みを利用されたことが、あの最後の一行によって明かされる。復讐を好む小佐内さんのキャラクタの魅力が最大限に発揮されるような物語構造が採られている。
夏期限定は小鳩くんがさまざまな手がかりから犯人を推理するけれど、今回の小鳩くんは情報戦をしたり罠を仕掛けたり、あまり探偵役っぽい推理はしていない。むしろ作者対読者の直接対決だった。あの最後の一行によって、読者は作者と小佐内さんによって手玉にとられていたことを知る。「この子、他愛ないな」うひゃー!
氷谷くんは瓜野くんから防災計画を渡され、予言のカラクリについても説明を受けていた。だから、月報船戸に予言された詳細な場所指定(=小鳩くんの罠)をおかしいと思うはず。
実は氷谷くん、そろそろ瓜野くんが気の毒になっていたんじゃないか。他のクラスの月報船戸と比較して文章の違いに気づき、瓜野くんが自分に罠を仕掛けようとしている(本当は小鳩くんだったけど)と気づいたけれど、あえて従ったのでは……と妄想推理。
と、ここでみっつさんから指摘。次の放火現場の下見で、氷谷くんは瓜野くんに「ちょっと書き方が変わっていたね」(下巻p.77)と声をかけている。これが伏線だったんだよ!氷谷くんはやっぱり詳細な場所指定がされたことを変だと思っていたけれど、放火犯をファイアーマンと名付けたことのほうへ話題が逸れて、話し合う機会を逃しただけだったんだよ!
確か、この辺りから交換法則が成立しない演算(a*b≠b*a)についての高度な議論が始まった気がする。「その中性的な顔立ちは男から見てもなかなか整っていて、軽薄な黄色い声をかけられることも多い」(上巻p.21)。小鳩くんは狐にたとえられていたけれど、けものへんがないのが「瓜」野くん。瓜野くん痛々しいよ。増長ぶりからして絶対ひどい目に遭うことになるだろうと思ったけれど本当にひどい目に遭ったね(うふふ)。
瓜野くんが中二病なら、小佐内さんと小鳩くんは高二病? ていうか、この二人が大学生になってもこのままなら、とてもまずい気が。実は脱オタ小説なのですよ! ミステリをやめられない可哀想な子達なのです……あれ、なんだか僕達、息が苦しいよ?
小鳩くんはMなのか否か。小鳩くんはプライドが高いから、そういう属性があっても自覚ができない。ファミレスで推理に失敗した(下巻p.70)のも、仲丸さんとの関係悪化に動揺してたのかも。堂島健吾に『お前は結局、小市民じゃないんだよ』(下巻p.139)とシリアスに迫られても「ケータイのバッテリーは大事にしようよ」とスルーするところなんか実にいい。
休憩時間、マンガ版についての話題になる。オリジナルエピソードで明かされる驚愕の事実、小佐内さんは○○○○○○○だった!スイーツを買うお金はそれで稼いでいた! しかも「こんなんじゃ物足りない」とか言ってる!
春期限定の帯には「小市民を目指す小鳩君と小佐内さんのコミカル探偵物語」。いまになってみると、なにかこう、胸につかえるものが。夏期限定の帯「緊張の夏、小市民の夏。」ああ、もう、この頃からおかしくなってきている。「私、表紙で可愛らしい話だと思って買ったんですよ~」いま、日本では一分間に二人のペースで(以下略)。秋期限定は上下巻で表紙がつながる。「店で逆に置いてた……」by書店員さん。
やっぱりこのシリーズはスイーツの場面が清涼剤なので、秋期限定はそういう場面が比較的少なかったのが残念(なにに対する清涼剤?)。本格的なスイーツ好きなら、もう少し高級なものを試すんじゃないか。
タイトルについて。放火事件とかけて「火中の栗を拾う」すなわち危険なことに首を突っ込んでしまうことを象徴してたとも読みとれる。栗きんとんでなくても、モンブランでも良さそう。それなら春夏ともカタカナで合わせられたのに。
冬季限定がどうなるか大予想。庶民とはわかりあえないよと関係復活した二人。でも、確かに小佐内さんのことをわかるのは小鳩くんだけかもしれないけど、小鳩くんのことをわかってくれる人は他にもいる。そう、堂島健吾だ。
小鳩君を真人間にしようとする健吾! 一人取り残され、二人への復讐を決意する小佐内さん! 友情と愛の板挟みで苦悩する小鳩君!「だー、かー、ら!誰もBとかLとか言ってないじゃないですか!」
「中学の時に、ほら、あの子とつきあったきりだったし」(下巻p.208)が伏線か!? 二人が小市民を目指すきっかけになった事件が関わってくるのかも。Book Japanでのインタビュー記事では「ジョセフィン・テイをイメージ出来ればいいと思っています」とあるぞ。matsuoさんが叙述トリックを使った案をだし一同感嘆。タイトルは「冬季限定毒入りチョコレート事件」に間違いない!
【B.J. Interview】米澤穂信 小市民、とはいいつつ強烈な自意識をもった高校生のカップル。この先、いったいどうなるのだろう。【Book Japan】
http://bookjapan.jp/interview/090713/note090713.html
……とまあ、こんな感じ。
休憩とか受付とかの時間を除いても二時間以上たっぷりあったのに、ズーッと盛り上がりっぱなしでした。参加者のみなさま、スタッフのみなさま、おつかれさまでしたっ!