検屍結果

 被害者の氏名は橘麗。
 玖乃杜高校の物理教師。
 死亡推定時刻は午後四時から四時半の間。

 死因は後頭部への殴打による脳内出血。
 ほぼ即死だったと推察される。
 他に外傷は見受けられない。
 創傷の状態から、凶器は平たい鈍器と推察される。

殺害現場の状況

 被害者は窓際にうつぶせで倒れていた。
 スラックスのポケットから、理科準備室の鍵がみつかった。

 特に血痕はみつかっていない。
 流血が少なく、床に垂れ落ちていなかった。

 鍵、南京錠、廊下側の扉に、指紋が拭きとられた痕跡があった。
 凶器は不明。それらしいものはみつかっていない。

 事務机の脇に、書類鞄があった。
 用務員の宇美音鳴子によると、鍵を借りに来たとき被害者がぶらさげていたものと同じと思われるとのこと。
 机の上にはいくつかの書類があり、業務の途中だったと思われる。
 ただし、いくつかの物品に指紋を拭いた痕跡があった。
 発見者の生徒から、写真立てが無くなっているとの証言があった。
 しかし被害者が身につけていた金品、準備室の薬品や備品が盗まれた痕跡はみつかっていない。

キーボックスの管理簿

 特別教室棟についての記録は以下の通り。

午後三時三十三分 姫百合郷が美術室、美術準備室の鍵を借りた。
午後三時三十四分 水影星子が第二図書室の鍵を借りた。
午後三時三十八分 姫百合郷が美術室、美術準備室の鍵を返却した。
午後三時三十九分 水影星子が第二図書室の鍵を返却した。
午後三時四十一分 被害者が理科準備室の鍵を借りた。

 職員室には常に教職員がいた。
 無断でキーボックスから鍵を持ちだせた可能性はない。

特別教室棟について

 放課後、特別教室棟で使用された部屋は以下の通り。
 他の部屋はすべて施錠されていた。

 これらの部屋は特別教室棟の東端にある。
 特別教室棟を出入りしたのは生徒八名、教師二名(被害者、殿村耕作)。
 その他の人物が出入りした目撃証言は得られていない。

 あわせて「各階平面図」を参照すること。

現場周辺にいた生徒の証言

 体育館で複数の運動部員が練習していた。体育館の周辺は絶えず人の出入りがあった。
 校庭の東端にあるグラウンドで、野球部が紅白戦をしていた。
 吹奏楽部の部員は校舎内で練習していたが、トランペットを担当していた部員数名が体育館と特別教室棟の間で練習をしていた。

 これらの生徒に事情聴取をしたが、特別教室棟を出入りした生徒八名の証言と、特に矛盾した情報は得られなかった。

 あわせて「現場周辺図」を参照すること。

 駅周辺での聞き込みも行った。
 駅員や商店街関係者らから、美術部員(甘宮、楠木、姫百合)の目撃証言が複数得られた。
 美術部員が、いったん下校した後、死体発見までの時刻に学校へ戻ってきた可能性はない。

各人の証言

 特別教室棟を出入りした生徒八名の証言は以下の通り。
 証言内容を「行動表」にまとめる。

花房 律

ホームルーム終了後、南棟三階の空き教室で仮眠。
目が覚めたとき、水影星子がいた。
携帯電話の時刻表示が午後四時一分だった。

二人で第二図書室へ移動。
途中、南棟の階段の踊り場から、特別教室棟三階の廊下にいる殿村教師、寒桜囲夫、湯船想慈、甘宮杏を目撃。
ただし、甘宮杏とは面識がなかったため、その時点ではわからなかった。

途中、理科準備室が施錠されているのを目撃。
第二図書室で、水影星子と甘宮杏が短い会話。
図書準備室の窓から、グラウンド脇にいる寒桜囲夫、湯船想慈を目撃。
図書室で、水影星子と寒桜未緒が短い会話。
この直後、携帯電話の時刻表示が午後四時半だった。

寒桜囲夫へ電話、試合の状況を質問。
携帯電話の通話履歴によると、午後四時四十分だった。
その後、寒桜未緒が図書準備室へ入るのを目撃。

しばらくして、寒桜未緒が話しかけてきた。
寒桜囲夫、湯船想慈が図書室に戻ってきた。
チャイムが鳴り、湯船想慈が腕時計で午後五時半だと言及した。

午後四時半以降、水影星子は隣の机で勉強しており、席を離れなかった。
寒桜未緒は書架の奥におり、直接的には姿を見ていない。

水影 星子

ホームルーム終了後、職員室で第二図書室の鍵を借りた。
解錠後、すぐ職員室へ返却した。
図書室へ戻ると、寒桜囲夫、湯船想慈が来ていた。

しばらく雑談の後、花房律に会うため南棟へ向かった。
二人で第二図書室へ移動。
途中、南棟の階段の踊り場から、
特別教室棟の三階にいる殿村教師、寒桜囲夫、湯船想慈、甘宮杏を目撃。
水影は甘宮杏と面識があり、はっきり視認できた。

以降、花房律の証言と相違無し。

寒桜 未緒

ホームルーム終了後、担任教師に片付けの手伝いを頼まれた。
片付けが終わったのが教室の時計で午後四時過。第二図書室に移動。

その後は、ずっと図書室もしくは図書準備室にいた。
花房律の証言と相違無し。
書架の奥にいたため、花房律、水影星子からは姿が見えなかった。

寒桜 囲夫

ホームルーム終了後、湯船想慈と共に第二図書室に移動。
鍵は既に開いていた。やがて水影星子が到着。しばらく雑談。

午後四時前、水影星子が南棟へ向かった。
そのすぐ後、甘宮杏に誘われ、美術室前の廊下に移動。
バドミントンを始めたが、殿村教師にみつかり説教を受けた。
バドミントンの間、楠木亜里砂、姫百合郷はでてこなかった。

湯船想慈と共に外へ移動、野球部の紅白戦を観戦。
午後五時過ぎ、いったんトイレのため特別教室棟へ。数分程度で戻る。
それ以外は、試合終了の午後五時半前までグラウンド脇にずっといた。
野球部員ら複数の目撃証言がある。

湯船 想慈

ホームルーム終了後、寒桜囲夫と共に第二図書室に移動。
以降、寒桜囲夫の証言と相違無し。

甘宮 杏

ホームルーム終了後、美術室に移動。鍵は既に開いていた。
やがて楠木亜里砂、姫百合郷が到着。

教室の時計で午後四時前、姫百合郷をバドミントンに誘ったが断られた。
二階の第二図書室へ行き、寒桜囲夫、湯船想慈を誘った。
美術室前の廊下でバドミントンを開始。
楠木亜里砂、姫百合郷は一度もでてこなかった。
やがて殿村教師にみつかり、説教を受けた。

第二図書室に行き、水影星子と短い会話。
美術室に戻り、仮眠をとった。
教室の時計で午後五時半、姫百合郷と下校した。

楠木 亜里砂

ホームルーム終了後、美術室に移動。鍵は既に開いていた。
甘宮杏が来ていた。やがて、姫百合郷が到着。

その後、何度か美術準備室には入った。
しかし数分程度で美術室に戻り、廊下へはでなかった。
姫百合郷はずっといた。

教室の時計で午後四時前、甘宮杏はバドミントンのためいなくなった。
戻ってきてからはずっといた。

教室の時計で午後五時半、甘宮杏と姫百合郷が下校した。
午後六時前に下校した。

姫百合 郷

ホームルーム終了後、職員室で美術室と美術準備室の鍵を借りた。
解錠後、すぐ職員室へ返却した。

美術室に行くと、甘宮杏、楠木亜里砂が来ていた。
来たときと下校時、イーゼルの準備と片付けで美術準備室に入った。
しかし廊下にでることはなかった。

楠木亜里砂は何度か美術準備室に入ったが、数分程度で美術室に戻ってきた。

教室の時計で午後四時前、甘宮杏はバドミントンのためいなくなった。
戻ってきてからはずっといた。
教室の時計で午後五時半、甘宮杏と下校した。

アリバイ

 特別教室棟を出入りした生徒八名について、死亡推定時刻のアリバイは以下の通り。

花房 律   ○
水影 星子  ○
  →南棟で花房が起きたとき午後四時一分だった。
   その後、ずっと二人で一緒にいた。

寒桜 囲夫  ○
湯船 想慈  ○
 →午後四時過ぎまでは美術室前でバドミントンをしていた。
  それからグラウンドで野球を観戦していた。
  常に二人で行動していた。

甘宮 杏   ○
 →午後四時過ぎまでは美術室前でバドミントンをしていた。
  囲夫、湯船が一緒だった。
  その後、美術室に戻った。楠木、姫百合が一緒だった。

楠木 亜里砂 ○
姫百合 郷  ○
 →ずっと美術室、もしくは美術準備室にいた。
  美術室、美術準備室の外へはでていない。

寒桜 未緒  ×
  →午後四時過ぎに図書室へ来た。
   書架の奥にいたため、水影、花房からは姿が見えなかった。
   図書室は奥のほう(カウンターと反対側)にも入口がある。
   水影、花房に見られることなく廊下へ出ることができた。