美術室の扉を開けると、甘宮先輩と楠木先輩がいた。これが放課後なら、いつもの光景だ。でも、いまは昼休み。
「姫百合君、誰かに言われて来たの?」
 楠木先輩が、少し不安そうな顔をしていた。
「隣のクラスの男子から、メモを渡されました。先輩達は?」
 あの男子、名前はなんて言ったっけ? なんだか暖かそうな名前だったのは覚えているけれど。
 名前を知らない女子から、手紙を渡すよう頼まれた。そう言って、その男子は僕に折り畳んだメモ用紙を渡した。
 昼休み、美術室に来てほしい。橘先生の事件について、話したいことがある――そんな内容だった。
「私達は星子ちゃんからー。知ってる? 図書班の人だけど」
 黙って首を横にふった。というか、図書班ってなんだろう。
 とりあえず、先輩達と同じ机に着こうとしたとき、背後で扉が開いた。
「――そろってますね」
 知らない顔が、そこにあった。
 セーラー服。長い黒髪。
「姫百合さん? とりあえず、座っていただけますか」
 なんだろう、この人は。
 肩に届く黒髪。頭の左右に、大きな水色のリボン。それだけだと、いかにも女の子らしい格好だと思う。うちの高校ではあまりみかけない、少女趣味っぽい感じ。
 それなのに、表情が冷たい。まるで肉も骨もないみたいに、人間らしさが感じられない。ソフトビニールの人形みたいだ。鏡に映せば、あっという間に偽物だとわかるんじゃないか。
「え? あ……はい」
 気圧されるようにして、僕は椅子に座った。
 図書班の人だろうか。星子とかいう人? いや、楠木先輩も甘宮先輩も、顔を見合わせている。
「あのおー」
 甘宮先輩が、片手をあげて左右にふった。
「どっかで、会ったことない? なんか、見覚えある気がするんだけど」
「いいえ」
 見た目は、普通に玖乃杜の生徒だ。セーラー服に、白いスカーフ。本当に生徒なら、どこかですれちがっていてもおかしくないけど。
 あれ? 白いスカーフの学年なんて、あったっけ?