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- しらゆきひめ MYSCON8 新本格誕生二〇周年記念企画 犯人当て小説 プロトタイプ版
経緯
近田鳶迩さん(MYSCONスタッフ)からオファーがあったのは2006年10月22日、ちょうどMYSCON開催日(4/21)の半年前だった。
「僕がアヤツジなら君はアリス、が嫌なら、僕がウタノなら君もウタノ、のダブルウタノ又はふたりはプリキュアっぽい感じでよろしくお願いできませんでしょうか」(原文そのまま)という文章に内心激しく不安を覚えつつ承諾の返事を送った。
とりあえず二人で手持ちのアイデアをだしあい、そのなかから三つほど良い案を選んでプロトタイプ「みがわり」を作ったのが十一月の終わり頃だった。
この間コードネーム「とばっちり」「いさみあし」「おせっかい」といったプロトタイプが没となり、「容疑者X論争絡みで蔓○さんが殺される!」「開会宣言でsh○kaさんがいきなり血を吐いて死ぬ!」といったアイデアが消えていったのだが多くは語るまい。
だが! このプロトタイプも鳶迩クオリティを満足させることはなかった!
中心的なトリックである「連続殺人鬼が残したメッセージのミッシングリンク」を理想の姿に近付けるべく、二人は夕陽で真っ赤に染まった河原で殴り合った!(イメージ映像) 吹雪の八甲田山で「鳶迩さん! 鳶迩さん! 眠っちゃダメだ!」「ご、ごめん……俺達、ダブルウタノにもプリキュアにもなれなかったよ(ガクッ)」「鳶迩さーん!」(イメージ映像)。
十二月の末、ようやく最終的な形のトリックが完成。一月末にMYSCONスタッフお披露目ということになり、とりあえず問題編だけでも小説の形で書いてみることになった。三週間ほどかけてコードネーム「しらゆきひめ」を書き上げ、鳶迩さんに送った。
「なんで解答編まであるねん!スタッフに読ませるだけやから問題編だけでええってゆうたやないか!」
「イヤー、病院の待ち時間がスッゴイ暇で~、なんか書き出したら止まらなくなって~、『もうこの際、これを読むのは鳶迩さんだけでもいい!』て思ったのよ~」
この時点で問題編の原稿用紙換算枚数が 68枚、解答編が 58枚あった。さすがに長すぎるよねということになり、鳶迩さんがリライトして問題編は大幅に刈り取られ、62枚になった。<短くなってねぇよ!
「解答編の朗読劇、人が不足してるからでてくれない?」
「あいあ~い……って、江戸釜先輩役? エー、それはいくらなんでも」
「責任をとれ」
かくして運命の 4/12、問題編公開。4/21、解答編朗読劇を上演したのだった。
ちなみに、中核的なトリックについては鳶迩さんのアイデアが元になっていることもあり、鳶迩さん八割、小田が二割といったところ。キャラクタとか文章面については小田の書いた小説版がベースなので小田が七割、鳶迩さん三割という感じ。
反省点
大変貴重なトラウmアドバイスを頂いた皆様(特に安眠練炭さん、市川憂人さん、秋田紀亜さん、そらけいさん)に感謝いたします。
- 境界条件の記述不足
- 麻闇の文章そのものが(ライトノベル風ということもあり)全体的に説明不足だったり妄想に走ったりしていて信頼しにくい
- どれくらいの電力使用で停電を起こせるのか不明確
- 離れの風呂の位置関係がわかりにくい
明かりが点いたことを目安に襲ったとあるが、離れの風呂に移動するとき顔が見えないとの記述はない - ドライヤーが本当に存在するのか確認されていない
- (夕食の席で自己紹介したという記述はあるが)
犯行時点に栖川が虹村水樹の名字を知っていたという明確な記述がない
- 心理面での不自然さ
- 水滴を拭うならタオルを用いるはずであり、ドライヤーで乾かすのは不自然
- 浦駕の性格や、他人の家であることを考慮すると、窓の鍵を閉めに行くのはリスクが大きすぎる
- 停電という不測の事態が起きたなら、入ってきた窓から戻るはず
- 不自然な行動/証言
- メッセンジャーによる最初の被害者は「鷹田」で、名字の最後の文字は濁音の「だ」だったが平仮名メモは「た」が残された
浦駕が被害者の名字を「宇多田」と思っていたなら第一の被害者と同じく「だ」ではなく「た」を残すべき - 浦駕は江戸釜にひきとめられたため鳳明荘に残ることになった
水樹の部屋に忍び込むことを考えていたなら、自分から残ることを言い出すはず - 浦駕が玄関からリビングに戻ったなら、江戸釜が気付くはず
酔っていたにしても、江戸釜は「玄関にいたはずの浦駕が通り過ぎなかったのにいつの間にかリビングにいた」ことを不審に思うべき - 濡れた雨合羽をポケットに隠すのは、濡れていることや大きさからして考えにくい
小さな雨合羽だったならズボンの裾などが濡れるはず
- メッセンジャーによる最初の被害者は「鷹田」で、名字の最後の文字は濁音の「だ」だったが平仮名メモは「た」が残された
- 時代考証の誤り
- 登場人物「麻闇由汰」の「汰」という字が人名用漢字になったのは1990年であり、小説内の1987年には名前としてありえない
- 携帯電話は1987年に販売が開始されていた(山奥まで基地局がまだ無い&かつ大学生が持っていたとは考えにくいにしても、携帯電話の有無は推理に与える影響が大きい)
- 作品として
- まっとうな犯人当てとしては正解率が低すぎる
- 解答編が長すぎる
- イメージをつかむためにも山荘の見取り図が欲しい
- それまで世間に流布していた「平仮名メモは名字の最後の文字」という説と、五番目の文字「だ」から(四人目の被害者に残された数字やメモと矛盾するにしても)名字を勘違いしている人物が犯人という推測は容易に成り立つ
解答編で真相に驚いてもらうためには、そのようなショートカットは無くしておくべきだったのではないか
- 配役について
- 江戸釜先輩が萌えキャラじゃなかった
- 江戸釜先輩はshakaさんに演じてほしかった
- おがわ探偵が登場しない
総括
とまあ、いろいろいろいろいろいろと問題点があったのですが、終わってしまえばすべてめでたい!<オイ
メッセンジャーのメッセージについては驚いて頂けたようですが、そのことばっかり注力しすぎて、正しい推理に導くための配慮とか、細かい部分での不自然さを解消しておく努力が欠けていたなあ~と反省することしきり。いやもうホントに申し訳ありませんでした。
個人的に驚いたのはメッセンジャー、虹村水樹の動機でした。小説執筆時、私は作者として、麻闇に対する水樹の感情がどんなものだったのかを決定しませんでした。水樹をサイコキラーとして予測のつかない行動をとる「化け物」にしたかったためです。
しかし市川憂人さんから指摘を頂きましたが、水樹は麻闇を入院させることで、結果的に第一の殺人におけるアリバイを作っています。麻闇に濡れ衣を着せるつもりだったなら、麻闇の退院を待ったはずです。
そして安眠練炭さんから指摘を頂きましたが、シリアルキラーが逮捕されにくい理由はまったく無関係な第三者を殺害するためであり、江戸釜という身内を、しかもあのような山中で殺害してしまっては容易に怪しまれます。このことから、水樹は自分が逮捕されることを覚悟していたと考えられます。
水樹は江戸釜の死体が発見された後、駆け付けた警察にあのメッセージを示し、麻闇を容疑者として逮捕させるという最後のイタズラ(ラスト・トリック)をするつもりだった。そのあとで、自分が犯人だという証拠を警察がみつけるまで待つか、もしくは自首するつもりだったと思われます。
もちろん、この推理が正しかったとしても、麻闇に対する水樹の感情は決定できません。破滅願望を持っていた水樹が、麻闇を巻き込んで絞首台への片道切符を手に入れようとしただけなのかもしれないからです。
彼ら彼女らはわかりあおうとした。私達もそれに参加した。払った努力に見合う結果が残った――そう言いきれたなら、どんなにいいだろうと思うのですが。
すばらしい演技を見せてくれた俳優の皆様、いろいろとサポート頂いたMYSCONスタッフの皆様、そしてなにより、何度も問題編を読み直して、考えに考え抜いて、熱い拍手を送って頂いた挑戦者の皆様に、重ねて御礼申し上げます。おつかれさま&ありがとうございましたっ!!
追記(2007.05.04)
安眠練炭さんから、感想を頂きました。わーい、ありがとうございます~。
- 一本足の蛸>2007-05-03 ミステリという異形のもの
http://d.hatena.ne.jp/trivial/20070503/1178172493
……す、すみませんすみません(土下座)。
エート、公開にあたって『しらゆきひめ』の修正はしていないです。
例えば浦駕が妻に金魚の餌を夕食にだされたことの言及は、『しらゆきひめ』では麻闇が買い出しに戻った後です。これは、その時点で妻の殺害を考えていたはずの浦駕の心理を考えると不自然です。このため公式の問題編では山荘に到着したときに修正されています。
エー、ではなぜ、『しらゆきひめ』では麻闇が大学入学まで無病息災だったと記述されていたにも関わらず、公式の問題編ではその記述が抜けているかというと……私が見落としたからです(杉本@むにゅ10号は反省しる!)。
あのメッセージについては正直、私もなんだか不思議な感じです。まだ「まやみゆたがころした」という意味のあるメッセージがでてくるならうなずけるんですが、意味の通らない文章ができるから犯人を指摘できるというのがなんとも……。
「弁護士とモデルが駆けっこをした。麓から丘の上まで往復した。上り坂は男性のほうが速いが、下り坂は若いモデルのほうが有利だ。勝ったのはどっち?」なんてパズルがありますが、これは答えをだせる(=フェアプレイが約束される)という条件が弁護士もしくはモデルの性別を決定してしまいます。
なんというか、ある有限のテキストからはさまざまな可能世界(浦駕以外が犯人であった世界や、メッセージが別の解釈をされる世界)を解釈しうるはずなのに、フェアプレイが宣言された途端、その物語世界は一意に決定されてしまうわけです。
ではそれによって読書体験が貧しいものになるかというと、そうでもない。頂いた解答やMYSCON8での感想を伺って痛感したのは、登場人物達と同じ目線で物語世界を受け止めようとする小説は、犯人当て以外にないんじゃなかろうかということでした。
……フト、上の文章を書いていて気付いたのですが……実は麻闇こそが犯人だったという解釈もありえそうな……。
つまり、水樹はやはりメッセンジャーで、江戸釜を殺害しようと離れの風呂に向かっていた。ところがそこで、買い出しにでかけようとしていた麻闇とでくわしてしまう。恐らくは水樹がナイフを持っていたことなどをきっかけに、二人は争いとなり麻闇は水樹を殺害してしまった。
麻闇は水樹のメモをみつけ、考える。そうだ、これを「たしろこだ」に修正して数字の「5」を残せば、名字を勘違いした浦駕さんが犯人だったという推理を作れるぞ。
買い出しから戻った麻闇は玄関へとダッシュしたあと、水樹の部屋に窓から忍び込んで鍵をしめた。そして自分の部屋から外にでて、なに食わぬ顔で玄関からリビングへ戻った。あとで(トイレに立ったときにでも)自分の部屋の窓の鍵を閉めた。
チョココロネを買ってきたのも笹木先輩を心理的に誘導するため。停電は、栖川が電子レンジを使ったことによる偶然だったが、後になって「このときに浦駕さんがドライヤーを使った」という偽の推理に使えると気付いた。
エート………………。
ああ、犯人当てって難しいなあ………………。