昼の部

 朝七時起床。鳶迩さんから送られてきた解答を読む。
 ああ、いまにして思えばこのときが最も幸福な時間帯であったかもしれない……(伏線)。

 気が付くと十二時半。昼食をとる暇のないままベルサール九段へ移動。会場の前では鳶迩さんが案内のためポツンと立っていた。羞恥プレイ?
 受付を済ませる。事前予約特典として「ミステリ取扱説明書」を頂く。「使い方:ページをめくるだけ! 簡単操作で誰でも楽しめる!」ワーイ、これでボクもミステリを扱えるぞー(棒読み)。
 読書会に向けて笠井潔『探偵小説論序説』をちょこちょこ再読しつつ待つうちに眠くなってウトウトしつつ待つうちに開会宣言、インタビュー開始。以下、印象に残ったことメモ。

海堂尊先生インタビュー

 最終的に書きたいシーンに向けて、そこへどうやってたどりつけばいいか考えながら書き進める。『チーム・バチスタの栄光』は前半で田口に謎を解かせることができず、しばらく放っていたがガーラ湯沢へスキーに行ったときに白鳥を登場させることを思い付いた。白鳥の登場に驚いたという読者の声があるが、作者本人もビックリ。
 事件は会議室で起きてるんだ! 現実では、本当に厚生労働省が医療機関を監査する調査団を作ったり、天才外科医がいて仕事ぶりに周囲がついていけず摩擦を起こして手術件数を抑えられたりなんてことが起きてる。小説より現実のほうが派手かもしれないが、確実に言えるのは医療の現場が疲弊しているということ。小説の中だけでも論理で決着をつけたい。
 マンガチックなキャラ+社会派ということは特に意識したわけではない。京極夏彦作品はデビュー当時『どすこい』しか読んでいなかった。マンガはよく読む。『SLAM DUNK』とか人気のマンガをアトランダムにおっかけている感じ。デビュー前は医学マンガを読んでおらず、作品を書く上でのリサーチはしていない。
 小学生のとき『三国志』をパロってクラスメートが小説内キャラとして登場する『四国志』を書いていた。瀬名秀明『パラサイト・イブ』に触発されて自分でも小説を書こうと思ったが四枚で挫折、それが後の『螺鈿迷宮』になった。受賞したとき審査員からプロットはどんな風にと訊かれたがプロットという言葉自体を知らなかった。最高で一日に百枚書けたことがあったが、あくまでそれは瞬発力。今後も医師との兼業を続けたい。

三津田信三先生インタビュー

 鮎川哲也編集『本格推理3 迷宮の殺人者たち』に掲載された「霧の館 迷宮草紙 第一話」がデビュー作。第二話、第三話も応募したが落選。
 小学生のときガストン・ルルー『黄色い部屋の謎』の消失トリックに衝撃を受け中学高校では本格原理主義者だったが二十代頃から反動がでてきた。本格ミステリは自分には難しく書けない、根っこはホラーと思っている。
 カーはバランスの悪いところが魅力でもあり、比較的バランスが良い作品という意味では短編か『火刑法廷』。再読したが、オカルト好きのカーにも関わらず『火刑法廷』は明らかに本格ミステリだった。
 熱病に浮かされたような乱歩の文章が大好き。ただし編集者として貼混年譜を出版できるかと言われると採算を考えてしまう。東京創元社なら戸川さんが社員に(以下略)。編集者として手がけた『ワールド・ミステリー・ツアー13』は東欧編の要望が多かったが売れ行きは伸びなかった。

桜庭一樹先生インタビュー

 SF系のイベントは一通り講演したが、ミステリ系は初めて(でも、SF系と同じ顔がちらほら……)。
 江戸時代を描くことはできないので『赤朽葉家の伝説』はそこまで遡らないようにした。ヨーロッパの古い時代なら『ブルースカイ』で書いている。それは『GOSICK』シリーズで調査したおかげ。ミステリは過去を掘り起こし、SFは一万年といった長いスパンの歴史を扱える。
 『赤朽葉家の伝説』で鳥取が物凄いところだと思われてしまった。吉川英治文学新人賞候補になり、年配の読者もサイン会に来るようになった。百ページほど没になった箇所のあらすじに会場内大受け。インタビュアー大森さんいわく、そういうのこそが小説の面白さなのにわかってないなあ、でもそこを削らなかったら吉川賞候補にはならなかったかも。
 一時から三時まで仕事を集中的にする。仕事の後は人からどうしたのと訊かれるほど消耗している。それ以外の時間はとにかくいろんな本を読んで、イメージをミックスすることで作品世界を思い描く。
 サインするときに貼るシールは作品毎に異なる。大森さんから、印税額と比べると赤字なシールがありますよとの指摘に桜庭さん愕然。
 今後は暗い内容を書いてみたいがいいのかな。富士見で『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』を書いたのになにをと大森さん。

幕間――記憶の隘路

 鳳明館への移動中、市川憂人さんそらけいさん踝祐吾さんとご一緒に昼食。鶏肉が無いなあと思っていたら親子丼じゃなくて玉子丼だった、などとほのぼのした会話をしていたら、背後から声。

「汰という字が人名用漢字になったのは1990年」

 ――暗転。

夜の部

開始宣言

 鳳明館到着。安眠練炭さんから、エー、犯人当てについて、こう、色々と誘導尋もお話をうかがう……問題編を読み終えたmatsuoさんにアドバイスを送るのを聞きながら身悶える……。
 戸板康二『團十郎切腹事件』とかガガガ文庫で出版予定のゆずはらとしゆき『十八時の音楽浴』のお話。夢野久作『人間レコード』になんの萌えが。『瓶詰の地獄』とか『ルルとミミ』とか『少女地獄』とか『死後の恋』とか、やりやすそうなのは色々あるのでするが。
 十九時、大広間でshakaさんによる開会宣言。やたらと長いノリノリな拍手に体力を温存しなさいと全員叱られる。森さんにご挨拶。4000ヒットおめでとうございます。

教訓:拍手は短めに。

読書会

 今年の課題本は笠井潔、探偵小説論三部作。『探偵小説論I』『探偵小説論II』は東京創元社に在庫なし、大手書店のサイトで在庫検索してもみつからず、渋谷区立中央図書館で借りて読んだ。以下、ポリティカルに可能な範囲でメモ。
 初めは十人くらいだったけれど、だんだん人数が増えていく。既読メンバーは卓のまわりに、未読メンバーは部屋の反対側で大量生を謳歌。この障子を開けると笠井先生が! マッチョイズム、一匹狼、ツ○デレ。世界が百人の笠井潔だったら。このままテーマ語りに突入してしまえ! レジュメをもとに蔓葉さんが『探偵小説論序説』の内容をとうとうと解説。現実的にどうしようもないことを観念や妄想でどうにかすることの繰り返し。新本格や清涼院以降がうまく説明できてない感じだけど他にきれいな理論ないし。セカイ系擁護なのは、自分でも書いていたから? 意外とプロモーター。科学じゃあるまいし評論はトンデモであって当然。みなさんの心に小さな大量死や大量生が。
 ああ……ポリティカルに可能でない話題のほうが圧倒的に多かった。

教訓:mixiは恐い。

犯人当て解答編

 スタッフ部屋に集合すべく鳶迩さんが役者達を呼び集める。「外に聞こえるとまずいから、どれくらいの声までなら大丈夫か確かめないと。進井さん、ちょっと声だして」「アー、アー、アー」「(外から戻ってきて)すみません、最初の声から聞こえました」
 事前リハーサル。といっても部屋が狭くて動けないので意識合わせと読み合わせだけ。「あ、そうそう市川憂人さんが、終わった後で反省会をしてはどうかとのことでした」「エート、それは袋叩きとかじゃなくて?」エヴィアンを買ってきたり、五人の命を屠ったイソジン臭いナイフを武山さんに渡したり。「これまでの被害者の名前をホワイトボードに書いておかないと」「あれ、あそこ赤のマジックはあったっけ?」「油性のならありますが」「………………」かくして、そらたさんが模造紙にペンを走らせたのだった。「はい、ここで江戸釜先輩が宇多田をとめると」「やめるなりよ~」「ここはシリアスなシーン! 江戸釜先輩はしゃべらない!」
 リハーサル終了。身体をほぐしたり真剣な表情で台本に目を通す進井さん&武山さんの姿にうっとりしながら眠りにつく江戸釜先輩。いやもう吾輩、疲れたにょろ~。
 会場準備、お客様入場。玄関で円陣組んでAKB48いざ出陣。
 満員御礼。江戸釜先輩、初セリフでなぜか笑いが。江戸釜先輩、長セリフが始まるところで思いっきりとちる。江戸釜先輩、宇多田を背後から押さえる手つきが中途半端過ぎ。
 MYSCON史上、未だかつて無いシリアスシーンを経て一足お先に退場。鳶迩さん、新入社員に早変わり。コントタイム開始。ギャグなのかセリフをとちってるのかわからない。山荘の別荘。舞台袖(廊下)で身悶えながら笑いを押し殺す役者達。メフィスト賞作家の本が続々と。「誰か忘れてない?」
 しゅーりょー。挑戦頂いた皆様、本当にありがとうございました。
 そのまま廊下で怒濤の如く反省会開始。スミマセンスミマセン。

教訓:語尾の恥ずかしいキャラクタを安易にださない。

大広間で雑談

 会場で後片付けしつつ反省会。市川憂人さんと大広間へ。古本オークションを横目に反省会が続く。古本オークション終了、そらけいさんや深川さん等を交えて午前三時過ぎまで猛烈な反省会が続きまくる。スミマセンスミマセン。
 秋田さんの薦めで涼宮ハルヒシリーズについての評論を読む。『涼宮ハルヒの消失』の内容をすっかり忘れていることに愕然としていると、いつの間にか人が少なくなってきた。寝ようかなと思ったが、なんとなくだらだらと会話を続ける。おがわさんや今田恵さん等と「ネットサーフィン」「OL」「ズボン」について死語判定をしたり、探偵小説論とセカイ系について論じたり。「今年は寝てる人が多いですね」「もう八周年だから、平均年齢があがってきてるんですよ」やがて根多加良さん等がやってきて、煙草部屋での萌え談義が飛び火。犯人当てのキャラクタ設計を説明したり、MYSCONの今後についてどうあるべきか真剣に討議した……り?
 で、気が付くと朝。大広間を片付ける。湊さんから濡れ煎餅を頂く。壁に背もたれて座り、ぼろくそに打たれて気を失いかけたボクサーみたいになっていると安眠練炭さんがやってきて犯人当てについて小一時間(略)。
 閉会宣言。三時間寝たshakaさんが長すぎる拍手に包まれながら退場。ふらふらになりながら外にでると、いつもより遅い開催日+去年より一時間遅い解散で、やけに空が明るかった。
 ああ――長い反省会だった。

教訓:犯人当てを書いたら、安眠練炭さんと市川憂人さんにチェックしてもらう。