17:10 会場到着

 ――また、詰まらぬものを作ってしまった。
 鞄に二十枚のA4用紙を忍ばせた私は、そう独り言ちつつ地下鉄南北線東大前駅を下車した。
 言問通りを南下し、道案内の進井瑞西さんと挨拶を交わしつつ、森川別館に到着。案内されて四階へ。昨年まで男性陣は三階だったが、今年は四階となったそうな。更に新たな趣向として、各部屋にはミステリ作品に登場する建物の名前がつけられている。見渡すと「十角館」「水車館」「迷路館」「時計館」。ウーム、最後まで崩壊しなかった館はあったっけ?
 同人誌即売会場へ。回廊 第七号が絶賛公開中秋山さんとご挨拶、短編小説「いつかきっと辿りつく」と「ライトノベル評論(?)vol.2」を購入。素天堂さんから恐る恐る「眼鏡文人vol.1 特集:小栗虫太郎 ノリハゼクマ編」を購入。濃ゆそう。松本楽志さんそらけいさんとご挨拶。全品、過去に購入済。ヘリテロVol.2以外は在庫極少だよ!通信販売中!
 時間になったので大広間に移動。そうでした、INOさんの今年の目標は「不眠」でした。「不倫」じゃありませんよ。

17:30 石持浅海さんインタビュー

 座布団が敷き詰められた大広間に次々と人が集まる。INOさんの声にエコーかかりまくり。故障でエコーの調整ができないのだそうな。ムーディーにいきましょう。
 前のほうにインタビュー用の長机があるのだが、いつの間に来たのか誰か座っている。眼鏡、ラフな服装。おや、参加者の人みたいだけど、スタッフでもないのにどうしてそこに座っているのだろう。ネームプレートには「石持浅海」。

 ……私はMYSCON3から参加しているが、ここまで会場に溶け込んでるゲストを見たのは初めてかもしれない。

 最前列が空いていたので前に詰めるよう指示が飛ぶ。「今年は××憂×がいないから、遠慮無く前へ」shakaさん、ひどいわ!
 インタビュー開始。司会の蔓葉さんが紹介を始める。エコーマジックに会場が失笑の嵐。マイク、放棄決定。
 印象に残ったことメモ。横溝正史「百日紅の下にて」の回想形式に大きな影響を受けている。鮎川哲也編『本格推理』シリーズは素人の腕試しという雰囲気があり、誰もやらないことをやろうと地雷シリーズを始めたそうな。二足のわらじを履いているが、『扉は閉ざされたまま』がこのミスで二位になっても職場の誰にも気付かれなかった。『扉~』は密室をテーマにしようとし、これまでにないトリックを考えるのは難しいだろうから別の方向で攻めてみようと考えた結果があの趣向になったとのこと。
 とても誠実かつ真面目な受け答えで、代わりに司会者がさりげなく意図的な笑いをとっていた(……多分)。論理性が優れてますね、こだわりがあるんですねと持ちかけると、いやそうではない、物語を望む方向に持っていくために、何度も戻って書き込みを加えたりしながら作っている。ある特殊なシチュエーションでの登場人物達の心理をシミュレーションすることが好き。最初は意識していなかったキャラクタがどんどん活発に動いて重要な役割を果たすこともあるし、逆に途中で気に入らなくなって文章をすべて消したキャラクタもいるという。
 ぜひ、MYSCONの閉鎖状況もネタにしてください!

 各企画の説明。エコーマイクでハイテンションの鳶迩さん。「どのミステリーがすごい!?」の一位は法月綸太郎『怪盗グリフィン、絶体絶命』。今年の全体企画「7つ数えろ!」は、参加者全員の中で七人しか当てはまらないような質問を考えるというもの。七人より多すぎたり少なすぎたり誤差が大きいほど負けとなる。例としてshakaさんが「MYSCON1からの皆勤賞は?」と訊くと、ピッタリ七人。面目躍如。
 休憩時間。「赤の密室」に移動し、『扉~』にサインを頂く。書きにくいハンドルネームで済みませぬ。夕食をとりつつ若林さん今田恵さんTomo-sさんとマンガの話など。そ、そうなのか、チャンピオンはあなどれないのか。

20:15 全体企画

 大広間に移動。ワトソン役なのを明かすのってネタバレだよねなグループ1「フランボウ」のメンバーは shakaさん、すずるさん、浅葱さん、たれきゅんさん、Tomo-sさん、沖唯章さんALPHAさん、そして石持浅海先生。
 没ネタメモ。会場にタクシーで来た人。出版社勤めの人。「どのミステリーがすごい!?」の総投票数が十八人だったそうなので、法月綸太郎を選んだ人が七人くらいではないか。「ミステリ・フロンティアを全部読んでいる人」「『買っている人』にしたほうが良くないですか?」「それだと、多すぎるから」「じゃあ、買っているけど一冊も読んでない人は?」湊さん、頑張って下さい。「石持浅海が嫌いな人」「誰も手を挙げんわ!」「そう、だから、うちの班のメンバーだけで手を挙げればピッタシに!」血液型がAB型の人<ミステリ関係ないやん。「横溝正史原作の映画を観たことがない人」「それはさすがに少ないんじゃ?」「じゃあ、横溝正史をJETでしか読んだことのない人」「そんな奴いるか!」スミマセン。本当にスミマセン。
 紆余曲折の末に「オリエント急行のトリックを知らない人」と……スミマセヌ、もうひとつがなんだったか、ど忘れした。そのうち発表されるだろうからMYSCON公式サイトをチェックだ!<おい
 九時、いよいよ発表。オリエント急行のトリックを知らない幸せ者は二名。『容疑者Xの献身』を本格ミステリと認めない方が一名。
 なによりも深く参加者全員の胸に刻まれたのは、あのベストセラー『ダ・ヴィンチ・コード』より、四大奇書をすべて読んだ者のほうが遥かに多かったことであろう……ここはどこの異空間だ。

23:10 個別企画

 個別企画一コマ目、赤い部屋での読書会。異常な興奮を求めて集まった、たくさんのしかめつらしい男女が……私もその中の一人だった……わざわざそのためにしつらえた「赤い部屋」の、緋色の座布団に深く座り込んで、今晩の進行役が、何事か怪異な物語を話し出すのを、今か今かと待ち構えていた。
 あ、間違えた。「赤い密室」での読書会。四時間かけて作ってきたカウンターレジュメをばらまく。来年の私のために自戒を込めて告白しておくと、別に毎年作ろうと思って作っているわけじゃないのよ。今年は再読した後でちょっとしたネタを思い付いてしまったため、そのために作りました(あと、蔓葉さんへのラブ)。ただ、あまりにあんまりなネタなので、とうとう読書会では話せませんでした。興味のある方は碓氷優佳の妄想と推理を参照。
 ネタバレにならない範囲で印象に残ったこと。表紙と登場人物の関係。若林さんの臓器提供講座。なぜもっと遅い時間帯に殺さなかったのか。このブルジョアめが(by根多加良さん)。lainさんがプラス評価+安眠練炭さん欠席=まったり。
 こんなに安心した顔で終わりの挨拶をする蔓葉さんは初めてかもしれない。石持浅海先生が異空間から突如出現し、感想を述べられた。
 終了後、蔓葉さんのもとへ駆け寄り「ミステリマガジン 2006年4月号」にサインを頂く。ありがたや、ありがたや。

 個別企画二コマ目、連想ゲーム。NHKでやってたあの連想ゲームのミステリ版。
 shakaさんチームとINOさんチームにわかれる。なにぶんミステリなので、固有名詞なしでヒントをだすのが大変。次回やるときは、最初の三つくらいはヒントを予め考えておくほうがよさそうですのう。「日常の謎」のヒントが「砂糖」って。「交換殺人」のヒントが「Win-Win」って。
 大差でshakaさんチームが勝っていたが、ラスト問題がお約束通りジャンピングチャンスに。ヒント「Referer」からINOさんが一発で「ミステリ系更新されてますリンク」を当てて大どんでん返し。罰ゲームとしてshakaさんは『怪盗グリフィン、絶体絶命』をジェスチャーで表現することに。「絶体絶命」のジェスチャーが素敵。

24:30 オークションとなにかと雑談

 大広間に移動。まったりと古本オークションを眺める。さすらい人さんは何冊買ったのだろう。オフでお会いするのは初めての森さんにご挨拶。来年いらっしゃるときは三澤さんの写真を、などと雑談をしながら森さんを観察していたのだが……

 ……確かこの人は、私と同じくらいの年齢のはずだが(ゴゴゴゴゴゴゴゴ)。

 古本オークションの反対側で「なにか」の準備が始まる。イヤー、もう、全然ゲリラじゃないね。これはきっと、来年は告知をしておいて、わざと別の時間、別の場所で始めるという真のゲリラのための布石に違いない。
 魔の時間帯になり、頭の中がかなりボンヤリしてくるなか大喜利開始。今年は七時のニュース番組形式。shakaさんがコメンテータ、七沢さんが美人キャスター、進井瑞西さんが妙にアクの強いキャスターを演じる。INOさん、おがわさん、松本楽志さんの頓珍漢トリオによる作家インタビュー。おがわ探偵の天気予報。ジャンク堂での書店員POP対決。進井瑞西さんの短絡探偵が、おがわ探偵に続く常連キャラになることを祈ってます。
 古本オークション再開。『桜色ハミングディスタンス』はゴセンエンですか。深夜企画の人狼に吸収されて、大広間はすっかり静かに。ライトノベル談義を耳にしながら私は忘我状態。寝ればいいのにね。途中から少し復活して、出版業界残酷物語や海外ミステリ振興策やさとるさんへのオススメ本提案などに加わる。毒があるもの、ひねくれた話というくくり。お、もうリストが公表されてますよ。早いなあ。確か私が挙げたのは『最後の一瓶』、皆川博子、レンデル、『停電の夜に』の表題作だったような。毒書案内ならあの人だよねと話しているとスズキトモユさんが登場。もう、ケッチャムでも物足りないらしい。ジョナサン・キャロルの魅力を活き活きと語るのでした。

 おや? 例年だと、なにか話すべき命題があったような……。
 ま、いっか!

 「あいつめ、なにがアメリカだ。根性あるなら動画でも送ってこいってんだ、馬鹿野郎め!」とshakaさんが熱燗を傾けながら涙ぐむ(ただいま、一部表現に誇張が混じっていたことをお詫びいたします)。なんか、今年はshakaさんとの遭遇率が高かったなあ~。昔話も聞けたし~。
 脈絡なくホワイトボードにスネ夫を描く。

スネ夫

 いま、Googleイメージで正解を確認。そうか、こんなんだったか……。
 shakaさんを中心にMYSCONの今後について討議。MYSCONの時期以外にネットでもなにかやりたいねえ。その一環が「どのミス」。MYSCON4辺りから二十代の参加者が入ってきて新陳代謝はされているけど、メンバー数は八十人からあまり増減しない。ただSF大会のように数百人、千人規模となるとスタッフの手がまわらない。SFはOBが頑張っているのが盛況な理由ではないか。今年は人狼など深夜企画を持ち込んでくれたのがありがたい。
 いまレポートを書きながら思うのだけど、さとるさんにオススメ本を提案したように、歴史的観点やジャンルではなくテーマ別に本を紹介するのも面白いかもしれない。いっそミステリに限らずジャンルクロスオーバーで、古典も新刊も飛び越えて紹介する企画、を誰か来年やらないかなあ(他力本願)。まあ、企画にしなくても、夜明け前の大広間ならネタふりすればすぐに読書猛者達が反応してくれると思いますが。あるいは、MYSCON開始前にテーマを募集し、当日は大広間に模造紙を貼って、そこにオススメ本(書名+コメント+ハンドルネーム)を自由に書き込んでもらう。で、MYSCON終了後にリスト化して発表なんてのはどうでせう。
 けっきょく、完徹。座ると眠ってしまうので立っている。shakaさんの「MYSCON8で会いましょう」を最後に解散。体力の限界を感じながら玄関に向かう。おや、宿の都合で一時間早い解散だったせいか、玄関扉の鍵が閉まったままになっている。

 「扉は閉ざされたままですね」と、落ちをつけたのは言うまでもない。