「世の中には二種類の人間がいる。二種類のどちらかに分類される人間と、そうではない人間だ」
「本当ですか?」
「それでは、これを命題Xとしよう。二種類のどちらかに分類されるなら分類A、そうではないなら分類Bとする」
「はい」
「太郎君がAに分類されるなら?」
「とりたてて、矛盾はなさそうですね」
「よろしい。では、Bに分類されると仮定したなら?」
「Bに分類されるなら、二種類のどちらかに分類されるという分類Aの定義を満たすわけですから、Aに分類されますね。でもAに分類されるなら、どちらにも分類されないという分類Bの定義に該当しなくなりますから、初めの仮定と矛盾します」
「いや、違う」
「え?」
「いいか、どちらか一方に分類されるのが分類Aの定義だ。その否定には二種類のケースがある。ケース1、どちらにも分類される場合。ケース2、どちらにも分類されない場合だ」
「すると?」
「太郎君がBに分類されると仮定したなら、君の言うとおりAにも分類される。つまり太郎君はAにもBにも分類される。これはケース1に当てはまる」
「ということはつまり、太郎君がBに分類されると仮定しても矛盾はないんですね」
「そうなるな。太郎君を分類Aと分類B、どちらに分類しようと矛盾は起きない。よって命題Xは正しい」
「ちょっと待ってください。太郎君がAとB、どちらにも分類されるなら、分類Aの定義を満たしませんよね?」
「うむ」
「すると太郎君はBだけに分類されるわけで。それだと、どちらにも分類されないというBの定義からも外れます」
「うむ、そうだな。つまり太郎君はAとB、どちらにも分類されない。これはケース2に該当する。太郎君がBに分類されるという仮定どおりの結論にたどり着いたわけだ。なにも矛盾はない。ゆえに命題Xは正しい」