ティモシー

 夢でみた映画の話をしよう。シェリーという少女は誕生日に母親のキャリーから熊の縫いぐるみをプレゼントされた。シェリーはその縫いぐるみにティモシーと名づけ、まるで本物の友達のように語りかけるようになった。まるで他の誰にも聞こえない言葉で縫いぐるみがしゃべっている、そんな振る舞いさえした。
 しかし、ある日を境にシェリーはティモシーと遊ばなくなる。キャリーが気になって探してみても、縫いぐるみはどこにも見当たらない。それだけなら娘が縫いぐるみを無くしてしまったとも考えられるが、不思議なことにシェリーはティモシーのことをいっさい話さなくなり、それどころかそんな縫いぐるみなど初めから無かったかのような受け答えをする。
 そんなある日、キャリーは夫のベックと激しく喧嘩し、結果としてベックは鞄ひとつ片手に家を飛び出してしまう。翌朝、ためらいながら子供たちにそのことを説明するが、シェリーはまるで父親など初めから存在しなかったかのようなことを言う。兄のジョニーがそのことを責め立てるが、涙をこぼしながらもシェリーはベックという父がいたことを認めない。
 精神科医に相談すべきだろうか。悩んでいるキャリーに一本の電話がかかってくる。こちらは病院のものです。お宅の息子さん、ジョニーが車に轢かれ亡くなりました。泣き狂うキャリーの姿を見上げながらシェリーは告げる。ジョニーって誰?
 とまどいと怒りと悲しみが混ざった感情で、キャリーは娘が嘘をついているに違いない、わざと忘れたふりをしているに違いないと思い込み、おしおきとしてクローゼットに閉じ込める。しかしやがて、娘が自分のことまで忘れてしまうのではないかと気づく。恐る恐るクローゼットを開けると、そこにはなぜか娘の姿はなく、消えたはずの熊の縫いぐるみがあった。首には名札があり、「シェリー」と記されていた。
 混乱し、立ち尽くすキャリー。玄関から声がして、夫と息子が帰ってくる。ジョニーは遊びにでかけた先で父と偶然出会い、話し合いの末、一緒に帰ることにしたのだった。やがて病院から人違いだったと詫びる連絡が来て、ジョニーが車に轢かれ死亡したというのはまったくの間違いだったとわかる。
 しかし、父と息子は二人、声をそろえて言う。シェリーはママの好きだった熊の縫いぐるみじゃないか。ティモシー? ティモシーって誰?
 目が覚めた後も、私はしばらく混乱していた。私の名前が、ティモシーだからだ。