チーズピザの背理法

 育ち盛りの少年に、チーズピザを与えてはいけない。世界を破滅させることになるだろう。
 少年はチーズピサを四分割し、ソファに寝そべってバラエティ番組を眺めながら、緩慢な動作で腕を伸ばす。まずは一切れ、それは全体の四分の一のピザだ。次に一切れ、それは残りの三分の一のピザだ。更に一切れ、それは残りの二分の一のピザであり、最後の一切れ、それは残りの一分の一のピザである。
 ああ、しかし! 育ち盛りの少年は空腹である! ブラウン管に映し出される影のない世界に惑わされ、茫洋とした意識で腕を伸ばす。さまよう指先はゼロ分の一のピザに触れるだろう。ゼロで割る! 数学的禁忌!
 かくして波動関数は発散し、多世界解釈がもたらすあらゆる命題が真となる……。