夢の中の殺意

 ある晩、推理小説作家が奇妙な夢をみた。
 街中を移動している。歩いているのではなく、人の目線の高さ辺りを低空飛行するように素早く移動している。やがて郊外にでると墓地があり、喪服姿の集団があった。神父と軍服姿の男が並んでおり、その背後に高さ三メートル程の十字架が立っている。十字架の先端から縄が垂れ下がっており、その先に女がぶら下がっている。縄で首を絞められ、白目を剥き出している。
 神父がなにか弔いの言葉をかけている。どうやら、女は軍人である夫に対し不義をなしたため、公開処刑されたらしい。軍人は妻の死体を背に無表情で突っ立っている。
 作家は思った。ハハア、これは叙述トリックだな。私は作家ではなく、縛り首になった女の魂というわけだ。不倫をしたのは本当は軍人のほうで、それを隠すために妻を殺したんだな。
 そこで作家は夢の中で軍人を絞め殺した。
 目が覚めてから、作家は自問した。自分が本当に女の魂だったのなら、確かに夫を殺す動機はあっただろう。しかし目の前の情景を叙述トリックと解釈したのだから、夢の中の私はやはり私自身だったことになる。だとすると、なぜ私は軍人を殺したのだろう。