科学情報誌の編集者A氏が、あるパーティーで懐かしい顔と出会った。人工知能による自然言語理解に関して素晴らしい論文を発表した情報工学科の学生だ。大学院を卒業後、最年少で助教授になったと聞いていたが、その後さっぱり音沙汰がなかった。
おひさしぶりですね、と助教授に声をかけると、爽やかな笑顔が返ってきた。しばらく当たり障りのない雑談を続けた。
「今はなにを研究されているんですか?」
さりげなく切り出すと、助教授は困ったように眉をしかめ、秘密めかすように口をA氏の耳元に寄せてきた。
「自然言語を自律的に習得するシステムについて」
驚愕したA氏が、そんなことは不可能でしょうと思わず言い出しかけたとき、背後から誰かが助教授に声をかけた。ふりかえると男性が立っており、泣いている赤ん坊を抱えていた。助教授が慌てたようにその男に駆け寄った。