結婚式、二人のどっちかの誕生日にしない?
そう言いだしたのは夕奈のほうだった。昼下がりの喫茶店で、テーブルを式場のパンフレットが埋め尽くしていた。いいね、それ。深く考えずに僕はうなずいた。
夏のオーストラリアに行きたくて、結婚式は冬になった。だから、冬生まれの僕の誕生日が結婚記念日になった。
五年が過ぎた。子供ができないことを、おかしいと思うには充分な時間だった。二人で病院に行って、僕の病気がわかった。
その夜、布団でエアコンの買い換えの話をしていた。それがいつの間にか、口喧嘩になった。夕奈は泣いて、僕は黙った。
「もし、別れたら」
天井の木目を眺めながら、僕はつぶやいた。
「毎年、誕生日のたびに夕奈のこと思い出さなきゃならなくなる。それって、不公平じゃないか?」
しばらく沈黙があった。
「じゃあ、私の誕生日に離婚しよ。それなら、私も毎年、思い出しちゃうから」
僕らはまた黙り込んだ。それから、夕奈が笑いだして、僕も、ちょっとだけ泣きそうになりながら笑った。