ふりむいて

 一人暮らし始めてもう長い。料理も洗濯も相変わらず下手だけど、文句を言う人もないし構わない。七階から見る景色はきれいでもないけど気に入っていて、毎朝毎晩カーテンの開け閉めのときに数秒眺めて天気を確かめる。
 ユニットバスの排水溝、詰まってきたのか流れが悪くなった。なかなか水が流れなくて、シャワー浴びるだけで小指の先くらいの洪水になる。水溜まりに雨粒があたるのと同じで、普通より水音がうるさくなる。風の強い日なんか、誰かが配管を撫でているような音がする。シャワーを頭にかけていると、耳たぶを水のカーテンが包んでなおさら音が変になる。まるで電話の音みたいな気がして、裸の私は怯えて身をちぢこませる。前髪から水滴を垂らしながらそっとバスルームのドア開けて覗くけれど、電話なんて鳴ってない。
 そういうとき、安心できるはずの自分の部屋が見知らぬ他人みたいによそよそしく感じる。私はバスルームのドアを閉じて、電話のコール音みたいなシャワーをいつまでも浴びる。胸の内が整理できるまで、ずっとずっと雨の中立ちつくしてたあの日みたいに、急に強くなろうとしてもがいている。