活きた台詞

 ファミリーレストランで昼食がてら原稿を書いていたときのこと。隣の席に姉妹らしき二人の女の子がいた。お姉ちゃんのほうは小学生くらい、妹のほうは幼稚園児くらい。二人だけで外食する年齢ではないだろう。それなのに、なぜか親の姿がない。
 習い事かなにかで親は別の場所にいて、子供たちだけで待たされているのか。そんなことを思いつつ、二時間以上が過ぎても親は姿を見せない。気になっていると、携帯ゲーム機ではしゃぐ姉妹に、通りがかった女性店員が「うるさいよ」と声をかけた。
 はたと膝を打った。なるほど、店員が親だったのか。ちゃんと親の目があったことに安堵すると同時に、つらつらと考えさせられた。
 相手が子供とはいえ、店員が客に対して急に乱暴な言い方をするなんてギョッとする。いい塩梅の考えオチになっている。これを自分が小説として描いたなら、わかりやすいよう「もうすぐお母さん、仕事終わるから」などと説明的な台詞にしてしまっただろう。
 文字にすると感じが悪いが「うるさいよ」という言葉からは遠慮のない親子の絆が感じられる。読者の洞察力を信じ、登場人物に生活実感のある活きた台詞を口にさせることの難しさを痛感した。