A君は、お父さんの勤め先があるビルを訪れた。幼いA君は、生まれて初めてエレベーターを使う。ただテレビで「鉄の箱を上下させて移動する」ことくらいは知っていた。
通りがかる人の姿は無かった。階数表示のランプは「5」が灯っており、いま五階に箱があるんだなとわかった。さて、A君の前には二つのボタンがある。お父さんの職場がある八階へ行くには、上矢印のボタンか下矢印のボタンのどちらかを押さなくてはならない。
そんな状況で、どう考えればA君は正解にたどりつけるか考えてみた。
「初めは、僕がいる一階へ五階にある箱を呼ぶため、下矢印のボタンを押そうかと思いました。でも、五階に箱があることをランプで示せるなら、箱だって自分は五階にいることをわかってるんですよね? だったら方向を教えてあげる必要はないと思いました」
「わざわざ僕が教えてあげないと箱にはわからないことってなんだろうと考えたら、それは僕が行きたい方向だって気づいたんです。だから上矢印のボタンを押しました」
こういう奇妙な「日常の謎」作品があったら面白そう。誰にでも当然となっていることを、なぜそうなるのか論理的に考える。いわばマイナスの謎。