以下、アカシックレコードはこの世に存在しないことを証明する。
アカシックレコードとは過去、現在、未来を問わず、この宇宙のあらゆる事実が記された書物を意味する。
正確には、次の二つの性質を満たすものをアカシックレコードと定義する。
【無矛盾性】
アカシックレコードに記されているのはすべて真実であり、記述内容と事実が矛盾することはない。
【完全性】
アカシックレコードにはこの世界のすべての事実が記述されている。
まず、アカシックレコードはこの世界に存在すると仮定する。
このとき、必然的に次のことに思い至るだろう。アカシックレコードはこの世界に存在するのだから、完全性を満たすには当然、アカシックレコード自身のことも記述されていなければならない。
そこで、次の問いを考察する。以下の文章Gは、アカシックレコードに存在するか?
【文章G】
アカシックレコードに文章Gは存在しない
イエスだと仮定する。つまり、文章Gがアカシックレコードに存在すると仮定する。
アカシックレコードには真実のみが記述されている。従って文章Gの意味内容からして、文章Gはアカシックレコードに存在しない。しかし、これは先の仮定と矛盾している。従って、無矛盾性を満たさない。
ノーだと仮定する。文章Gはアカシックレコードに存在しないと仮定する。
その場合、文章Gはまさしくアカシックレコードに存在しないため、文章Gの意味内容は正しい。ところが、文章Gは存在しないという事実はアカシックレコードに記述されておらず、完全性を満たさない。
文章Gが記述されているにせよ記述されていないにせよ、アカシックレコードは無矛盾性あるいは完全性のいずれかを満たさない。
従って無矛盾性と完全性の両方を満たすアカシックレコードはこの世に存在しない。
一点、補足する。
上記の論証が、アカシックレコード自身のメタ記述に依拠することは明らかだ。従って、アカシックレコードがこの世界の外に存在する可能性までは否定できない。
しかし、そのような不可知の世界については、なにかの存在も不在も証明できない。この仮定における推論は不毛であり、私たちは沈黙しなければならない。