追憶

 ここから先へはどこにも行けない、そんな場所はないだろうか。九州への修学旅行で鉄道線路の終端を見た。
 ここへ来てから空が広くなった。帰郷の途上でかつての通学路をたどり、こんなに狭かったんだと驚くのと同じ原理。パック詰めの痩せたもやしみたいに、背ばかり高いビルが肩身を寄せ合って空に憧れている。
 北欧の寒村を舞台にした小説にこんなシーンがあった。過去の思い出の品々を凍った湖の上に置き去りにする。やがて夏が来て氷が薄くなると、手紙もアルバムも、古くて音の狂ったグランドピアノも、光の届かない深さに水没していく。
 僕だったら、氷が溶けるまでに何度も捨てるのをやめようと取りに行くだろう。だけど、やっぱり捨てようとしてまた氷の上に置き去りに行くだろう。そんなことばかりくりかえして、いつか思い出と一緒に湖の底へ沈んでしまうだろう。それは事故になるだろうか、それとも自殺になるだろうか。
 ここから先にはどこも行けない、そんな気がする。失望ではなく、安堵を感じてる。